第21話  研鑽の魔術師(4)

 鍛冶屋から出て僕が向かったのは食品を扱う店の集まる市場の一角だった。魚、肉、野菜、様々な食料で溢れかえる市場は人も多く、昼前になると一気に品物がなくなってしまう。早めに必要なものは揃えてしまいたかった。後ろからついてくる魔女のことは気にせず持っていく食料を選ぶ。


(旅の期間は一週間……帰り道は先生の契約書を使って帰るから行きの分だけでいいな。保存の聞いて栄養価の高いもので……)


 店先に並ぶ品々を見ながら、一つに手を伸ばしかけて、止める。とりあえずで選んでいっていいものか考えて、そもそも何を作るのかも決めていないことに気づく。


(ていうか僕、何作れるんだ……?)


 ここに来て今更にそれに気づく。この間の旅はとにかく持っていけそうな食材を詰めて持っていって、その場で作れそうなものを考えていたから献立など考える余裕はなかったが、今にして思うといきあたりばったりもいいところだ。


「何を固まってるのかしら。まだ何も買ってないみたいだけど?」


 どうしたものかと考えている最中、追いついてきた魔女に声を掛けられる。振り返ると彼女は既にいくつかの紙袋を抱えていた。


「あ、ええと……アルシファード、さんの好き嫌いとか聞いてなかったなって……」


「なるほどね?でも言い訳にはちょっと苦しいかしら。もし本当にそうだったら好き嫌いと関わらないものを選んでおけばいいのだしね」


「う……」


 言い返せなくなった僕を見て彼女は肩を竦めると持っていた紙袋を僕に渡してくる。


「魚の干物、干し肉、乾燥させた海藻類とチーズと油と香辛料。あとは瓶詰めの野菜がいくつか。このあたりの主食はわからなかったから買ってないけれど、小麦と豆が主流なのかしら」


 言われて中身を見ると渡された紙袋には既にいくつも食品が詰められている。主食にするものや日持ちしないものはしっかり避けられているようで、悔しいが非の打ち所がなかった。しかし悔しさよりも驚きのほうが勝って、彼女を見上げる。


「わからないこと、あるんですね……」


「なに言ってるの、当たり前でしょう?馬鹿言ってないで足りないもの揃えなさい。大方作れるメニューを考えて悩んでたんでしょう、これだけあればあとは必要なものも絞れるでしょ」


「う、は、はい……」


 自分から食材買い出しを言い出したのにこの有様で情けないやら悔しいやらで視線を落とす。とりあえずあと必要になるのは水と、主食にするパンと米だろうか。肉も燻製肉があった方が楽だし卵もほしいが、そのあたりは持ち運びと日持ちに不安がある。今回は避けよう。考えながら足は数件先の店に向かう。


(でもほんと、意外だな……)


 アルシファードが発した「わからない」という言葉が頭に引っ掛かってしまう。今までの彼女の行動言動からは、自分の弱みなんて見せない印象を受けていたけどそうでもないのだろうか?あるいは僕にはわざわざ意地など張らないのか……。


(いやそれは考え過ぎだな……)


 否定的な考えになりがちな頭を振って店先に並ぶ瓶に手を伸ばす。結局主食だけ買い揃えて食料品の買い物は終わりになった。


「さて、それじゃあ一旦その荷物は宿に置いてきましょうか。大体の容量はわかったでしょ?」


「は、はい。とりあえず……」


「自信なさそうに答えるのね。さっきまでの威勢はどこ行ったのかしら」


 わかりやすく勢いのなくなった僕にわざわざ追撃をしてくるあたり、本当に性格が悪いと思う。



 

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