第16話 帰還(2)
先生に報告という名目で旅の話をするのは存外楽しかった。旅のはじめにヒルドラコに噛まれかけて事、崖に落ちかけたこと、はじめての野営で失敗も多かったこと。話してみると自分の言葉で整理ができて、そのときに何を思っていたのか自覚もできた。
ヒルグラムさんの事を聞くときの先生は、普段よりちょっとだけ優しい目をしていた気がする。
「そういえば先生はヒルグラムさんと知り合いなんですよね?どんな感じで会ったんですか?」
「ん、ああ。あいつが冒険者してたときに町であってな。あんまりにボロボロだったんで手当したのが最初だったかな」
「え、そんなにだったんですか……」
あのヒルグラムさんがそんな姿になっているのは想像できない。何年くらい前なのかわからないが、それなりに前の話だろうしきっと腕前も違ったのだろう。そう思えるくらいには彼を、自分と同じよう人間なのだと思える。
「そうだぞ、鎧なんかほとんど残ってなくてな。仕方ないから設えてやったらあいつ、一生使いますとか言っててな……」
「ああ、会ったときにも聞きました。先生に作ってもらった鎧なんだって」
それを聞いて先生は眉をしかめる。ため息を付きながら眼鏡を押し上げる姿には何やら複雑な感情が滲んでいたが、口にすると怒られそうなのでやめた。
「まああいつにはそれから色々教えてやったが、私も旅してたからな。何度か会って別れた。連絡がついたのもつい最近だ」
そう言って先生は椅子から立ち上がる。
「しかしそれだけ危険な目に遭って旅をしたのに、なんでお前は町に泊まらず帰ろうとしたんだ?しかも夜にだ」
見下ろす先生の視線から目をそらす。いや全くそのとおりで、本当に正気の沙汰ではなかったと思う。
「ええ、と……なんといいますか、理由とかそんなになくただ雰囲気に飲まれて……」
「なんの馬鹿者。たまたま行商のキャラバンが通ったから良かったものを、あのままならお前確実に死んでいたぞ」
「はい、すいません……」
プレイシタに入らずそのまま引き換えした僕は、しばらく進んだところで親切な通りがかりのキャラバンに拾われてマウリアへ帰ってきたのだった。おかげで三日掛かる道のりを一日で帰ってこれたが、無謀な行いをした僕は周囲から怒られまくりなのであった。
「契約書が機能していればすぐにここに帰ってこれるから、しっかり使えよ」
言われて頷きながら、ふと頭をよぎったことがあって先生に顔を向ける。
「あの、先生。次の仕事のことなんですけどーー」
「ん、なんだ?相手はもう探してある。いつでも……」
「あ、いえ、もし大丈夫なら、ちょっとだけ日付を空けさせてほしくて。やりたいことあって」
先生は少し首を傾げはしたが特段悩みもせず頷いた。
「ああ、構わんが。相手には伝えておこう」
「ありがとうございます!多分一日か二日で足りると思いますので!」
頭を下げると僕は立ち上がって、担いできていたバッグを背負い直す。
「終わったらまた来い。学校の授業は空いた時間に見てやるから」
「はい!ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げると部屋から飛び出して、学校からの下り坂を駆け下りる。見慣れたマウリアの町が、少しだけ違う色に見えた。
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