04

 応募した賞の一次選考結果発表日が近づいてくると、良太は落ち着きを失くした。

 集中力だけが取り柄にもかかわらず、朝から仕事が手につかない。

 何度も席を立ってトイレにこもり、スマホで新人賞のページをリロードした。

 おかげで同僚には腹を下したと思われた。


 夕方頃に結果が出た。

 そこに、蘭那由多あららぎなゆたの名はなかった。

 面妖なこともあったものだ、と良太は思う。

 学生時代は人並み以上に小説を読んだ自覚はある。

 自身の作品は、それに勝るとも劣らない出来であった。

 むしろ、自作に比べて劣ると思われる作品さえいくつか思い浮かぶ。


 不思議ではあったが、悔しくはなかった。

 良太に言わせれば、落選はたまたまだった、ということになる。

 レーベルの色に合わなかったか、一次選考で読んだ者の趣味に合わなかったか。

 いずれにせよ、自らの力が不足していたとは微塵も考えなかったのだ。

 そして……良太――蘭那由多は落選記録を連ねることになる。


 文芸雑誌に載るような新人賞は、選考結果が出るまで長く埒が明かない。

 そこで対象をweb小説の賞にまで広げ、さらに応募を続けた。

 応募の弾数、すなわち作品の数は多少増えたものの、多くが使い回しである。

 それでも落ちる。また落ちる。

 ここまでくると良太、さすがに何かがおかしいと思い始めた。


 生活習慣や気質含めてこれほど適正が高いのに、なぜいつまでも作家になれないのか。

 応募のカテゴリーエラーや、選考者とのミスマッチが、これほど続くものだろうか。

 本屋を訪れれば、最初に投稿した新人賞の受賞作が平積みされていた。

 一次選考の結果画面を何度も何度も、目が乾燥してヒリつくほど凝視したので、作者の名前――泥牛Zドロシーゼータを見間違えるはずがない。

 蘭那由多あららぎなゆたを差し置いて受賞し、あまつさえ書籍化にまで至った作品とはどれほどのものか。

 値踏みするべく、良太は受賞作をレジへと持参した。


 翌日から、良太のスキマ時間は受賞作の査定に消費されたのだが……。

 1ページ目から度肝を抜かれた。

 全然面白くないのである。

 目が滑って内容が入ってこない。

 比喩表現も稚拙だ。

 登場人物は誰も彼も、これまでの読書でそれぞれ少なくとも5、6人は遭遇したと思われるような、どこかで見たキャラクター。

 物語の展開にも特筆すべきところは見受けられず。


 返す返すも面白くないので、読了までやたらと時間がかかった。

 感想が特に思い浮かばない。

 もしもこの作品で読書感想文を書けと言われたら、確かに原稿用紙2枚さえキツいかと思われる。


 良太は何がなんだかわからない、狐につままれたような気分になった。

 なぜ泥牛Zドロシーゼータの作品が大賞に輝き、蘭那由多あららぎなゆたのそれは選考外なのか、皆目検討がつかない。

 世の中の人々は、本当にこれを読んで夢中になったりのめり込んだりできるのか。

 いったいどこで? 何ページの何行目で?

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