第19話

 それから僕も藤井高校を卒業し、この町を出た。藤井高校の大学進学率は毎年百パーセントだったけれど、それでも僕は高卒で東京に出た。藤井高校ではずっと野球部で甲子園を目指したし、練習も頑張ったけれどすごい奴らが集まる世代だったこともあり、あの西中野球部や、あの時スポ少で結成された「オールスターチーム」みたいな感じで藤井高校歴代最強チームの中、僕は最後の夏の大会にようやくベンチにギリギリ入るのが精一杯で。練習試合にも僕は出してもらえないレベルであり。練習試合も負けた記憶なんかないぐらい強いチームだったけど、最後の夏は一つ下のけんじが僕らの前に立ちはだかり、審判の誤審なんかもあり、あっさりと負けた。そしてけんじは甲子園に行った。僕が卒業した(つまり、僕の次の世代)年にとしくにはけんじとは別の高校から甲子園に出場し、甲子園で優勝、全国制覇を果たした。ただ、僕らの一つ下にはのちにプロ野球で最多勝を受賞することになる藤井秀吾がいた。一度だけ彼と練習試合をしたことがある。僕はその試合で一塁の審判をしていた。試合は藤井秀吾と僕のチームのエースの投げ合いで互いに一安打完封四死球なしで引き分けに終わったことと、当時は藤井秀吾の投げる球を打てる高校生は全国にはそうそういなかったということ。そんな三年間を僕は藤井高校で送ったということだ。

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