第18話

 僕は藤井高校に合格した。田尾は落ちた。正確に言えば補欠合格者(合格者の中で辞退する人間が毎年何人かいるのでその人数分がそこから合格者に回される)の名前にも田尾の名前はなくて。田尾は私立に行くことになった。付属中学の生徒は大体の奴が志望校に合格した。僕の家族が僕の為に合格祝いをしてくれた。ちょうどその時に田尾から電話がかかってきた。電話に出た僕の母親は嬉しそうな声でその電話に出て、受話器を僕に渡した。「田尾君から」と。


「あ、もしもし、えーじやけど」


「…やっぱりダメやったわ…」

 僕は後ろで騒いでいる家族に静かにするように人差し指でゼスチャーをした。

「うん、担任から聞いた…」


「お前…、頑張れよ」


 田尾の言葉はものすごく白くて、僕にとってものすごく重いもので。それに対して僕は言葉が浮かばなかった。こーちゃんの「けせらせら」も今の僕がそれを言っても上から言ってるようになると思ったのでそれを言わなかった。結局当たり障りのない言葉ですぐに電話を僕は切った。「お前も頑張れよ」とか「ドラム頑張れよ」とか「吉田栄作に似てる」とか。そんな田尾の重い言葉と比べたらどれも軽い言葉で。田尾の『頑張れよ』の言葉に百バーセントの言葉を返せなかったことがいつまでも僕の記憶の中で後悔として残り続けることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る