第15話
次の日、僕の母親とちびの大和の母親が学校に呼び出された。正確にはちびの大和の親が学校に苦情を入れて、僕の母親まで呼び出されることになった。教師たちが集まった職員室で僕と僕の母親とちびの大和とその母親の前で担任の教師が言った。
「とにかく森山さん、大和さんに謝ってください」
僕は謝らなかった。僕の母親は謝っていた。ちびの大和の母親はそんなものでは済まさない。問題にする、みたいなことをヒステリックに言っていた。ちびの大和は話が大事になりそうで不安そうな顔をしていた。
「とにかく大和さん。落ち着いてください。生徒たちも受験前ですし。大事な時期でもありますので。森山さんも謝ってくれていますし。受験が終わったらまたこの件はしっかりと私たちも含めて解決致しますので」
「でもその子は謝ってないですよね。私にはさっきから見ていても自分が悪いことをしたと思っているようには見えませんし」
「森山君、ちゃんと頭を下げて」
いろんなことがものすごい速さで僕の頭の中を駆け巡った。僕は言った。
「僕は自分がやったことが悪いとは思ってません。学校の教師だってみんなそうじゃないですか。いつだって大事なことは曖昧にして」
それから僕は遠足のジュースのことや熱血っぽい教師を演じる若い教師が本人のいないところで粋がっていることなど、僕がずるいと思っていたことを全て口にした。僕が全てをぶちまける寸前で僕は若い熱血っぽい教師を演じる教師にビンタされた。
「教師と生徒が同じだと思うなよ!」
殴られた瞬間、僕の頭の中では西中のみんなの顔が浮かんだ。「はっさん、おのき、たっこ、こーちゃん、さかもっち、りゅうじ、池尻、池田、ナリ、しんた、平井、岩本、みんな、ごめん。俺、甲子園いけんわ。約束破ってしまうわ。本当にごめん」。そう心の中でみんなに謝った。そして僕は言った。不思議と僕の目から涙がこぼれていた。
「僕、学校辞めます」
中学校を中退など聞いたことない。付属中学から中退なんて想像も出来なかったのだろう。僕を殴った教師も担任の教師も学年主任の教師もものすごく慌てていた。僕の母親は僕のことをよく分かっていて。ちびの大和の母親も慌てていた。
「俺みたいな人間のせいで自分の人生を無駄にするな」
熱血っぽい教師を演じる若い教師が言った。計算して出てきた言葉がそれ。他の教師も何とかこの場を丸く収めようとその熱血っぽい教師を演じる若い教師の言葉にどんどんとそれっぽいことを付け足していった。結局この件は曖昧なまま、僕以外は納得してなかったことにするとした。僕も学校を辞めずに頑張って藤井高校を目指すよう言われた。
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