第13話

 部活も引退となり、いよいよ受験シーズン本番モードに突入となった。

 付属中学の野球部も普通にあっさり最後の大会で負けた。西中野球部もいい線までいったけれど最後はあっさりと負けた。

「そりゃあ普段から酒飲んで、煙草吸ってるようじゃあ勝てるわけないわなあ。まあ、高校からはガチでやるわ。甲子園やしなあ。とりあえず高校んなったら禁酒禁煙するわ」

 みんながそんな感じだった。

「俺は高校いかんで働くんよ」

「偉いなあ。俺はとりあえずプラプラするわ」

 何人かはそう言った。二人きりの時にはっさんと話した。

「えーじは今受験で大変なんちゃう?」

「うん…」

「藤井行くん?」

「今のままやったら無理やと思う。佐川高校になるかなあ」

「そっか。俺、どこ行くと思う?」

「え?はっさん、もう決まってんの?」

「なんか、親の都合って言うか。大阪の私立に行くんよ」

「え?そうなん?」

「なんか、今の環境だと俺がワルになるって。無理やりにでもみんなと引き離したいんやろうなあ」

 僕ははっさんの言葉を聞いて何も答えられなかった。会話のキャッチボールが止まり、二人とも無言のまま歩く。沈黙をはっさんの言葉が破る。

「俺らって、大人から見たら『ワル』なんやろなあ。まあ、俺でも分かるよ。それぐらい。粋がって刺繍の入った長ランとかボンタンとか履いて。酒飲んで煙草吸って。よその学校に攻め込んだりしてなあ。でも『ワル』とはちょっと違うと思うんよ。俺からしたら俺もみんなも周りの奴より『ガキ』なだけちゃう?理屈じゃないやん?感情で動くやん?ツレと一緒なら楽しいし。ツレになんかあったら怒るし。あいつらと一緒にいられるのも、あと半年もないんか…。そう考えると悲しなったりするし。えーじもそうやし。まー君もそうやし。ガマ君もな。大阪行ったらもうこの先一生会えんかもって考えると寂しいなあ」

「高校って…、そんなに大事なんかなあ」

「え?何言ってんの、お前。甲子園行くんやろ?だったら高校いかなあ」

「うん…。でもいろいろあって。付属に行って友達四人出来たんな。四人ともええやつでな。それでも学校では藤井に行けないともう落ちこぼれみたいな雰囲気とかあって。でも四人の友達も藤井当確ってのは一人だけで。なんて言えばいいかな?」

 バシは成績もいい。藤井はほぼ合格判定。田尾と僕はギリギリで、おおばんは山商、シマは佐川高校も厳しい。

「付属は付属でいろいろあるんやろなあ。俺はまあ、見ての通りやからその辺の複雑な環境も知らんし分からん。でも、頑張れよ。高校いって、甲子園出てテレビに映ってくれよ。そしたら俺、みんなに自慢するよ。あいつは俺のツレやって」

「でも俺、池尻みたいに上手くないし。みんなより全然下手やで。俺よりめちゃくちゃ上手い池尻とかが高校いかんで働くとか。甲子園、甲子園って言ってたけど今になったら自分がどれだけのレベルか分かるし」

「だったら死ぬほど練習したらええだけやん。お前は昔から頭もよかったし。その分、難しく考えすぎなんちゃう?まあ、さっきはあんなこと言ったけど、またこの町には将来帰ってくると思うし。そん時またみんなで集まればええだけやし。お前の小学校卒業の時に書いた将来の夢、あれ、今でも俺は覚えてるで」

「なんか恥ずかしいな」

 僕は思わず笑ってしまった。

「『大人になりたくない』って最高ちゃう?カワセンの言葉も覚えてるよ。『俺はいつまでもガキやから』って。なんかよくない?『ガキ』って。かっこいいと俺は思ったし。俺もお前もいつまでも『ガキ』でええんちゃう?」

「それ、ええな。はっさんが大阪行く前にまたみんなでまー君とこで映画見よう」

「おう。絶対いこで」

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