第2話 絡繰達の祭宴

久しぶりにユニガンへ立ち寄ったアルド。以前立ち寄ったときはいつだったかなと思い出しながらアルドは歩いていた。


ユニガンの酒場の前を通った時、ヨミとミトの姉妹のことを思い出す。彼女らは元気でやっているだろうか。


久しぶりに顔を出そうかなと思ったアルドは酒場の扉を手をかけようとした。そのとき、自分以外の手がもう一本伸びていることに気づき、思わず「あっ」と声を出していた。以前もこんな事があった気がする。


相手も気づいたようでお互い顔を見合わせる。案の定、雨も降っていないのに唐傘を翳している見覚えのある巫女服の女性だった。


ヨミ「久しいな。アルド。元気だったか」

アルド「あぁ!久しぶり!ヨミも元気そうだな。妹とはうまくやれているのか?」


愚問だな、とヨミは鼻で笑う。

少し得意げになっているヨミがアルドに尋ねる。


ヨミ「そういえばアルド。知ってるか?」


なんの話だろうとアルドは首を傾げる。

知らないのか?とヨミは得意げに語り始めた。


ヨミ「今日、東方から有名な絡繰技師がユニガンへ来るらしいんだ。何でも絡繰によるパレードがあるらしいんだ。よければ一緒に行かないか?」

突然の彼女からの誘いに驚くアルド。でもヨミには妹であるミトがいるはずだが...


アルド「俺はいいけど... ヨミは妹と一緒にいかなくていいのか?」


むむむ、とヨミは何かに悩んでいる様子だ。そして打ち明ける覚悟をしたのか、実は...と語り出した。


ヨミ「実はな。アルド。ミトは絡繰恐怖症なんだ」


アルド「絡繰恐怖症!?何だそれ!聞いたこともないぞ」


ヨミ「絡繰の動きに恐怖を感じるというか...ミトの場合は子供の頃に父が持ってきた絡繰が暴走して襲われたのがトラウマになっているんだけどな」


ヨミ「呂の国は絡繰の技術力も高いからな。ミトを襲ったのもリアルな人の形と顔をした絡繰でな。ミトはソレがトラウマになってその夜から三日三晩夢に現れたらしい」


アルド「...それは誰でも怖いな」


ヨミ「だからミトは来れないんだ。だからアルド。ワタシと今から一緒に行かないか?」


アルド「あぁ!もちろん」


アルドとヨミは歩き始めた。

ユニガンの中心部、噴水がある辺りだろうか。

少しばかり歩くと先の方で人だかりができているのが見えた。ヨミがあれかな、と背伸びして先を覗こうとする。


人だかりの向こう側には人ならざるもの、すなわち絡繰達がいた。普段は戦闘用に用いられる絡繰であるが、祭宴のために改造されているのか絡繰達に装備されていたであろう武器は外されており、楽しそうに舞い踊っていた。


少しぎこちない絡繰の動きが逆にいい味を出しており、観客からの評価も悪くはなかった。一番前で着物を着ている男性が例の高名な絡繰技師だろうか。


絡繰技師「さぁさぁ、皆さま見ていって下さい!摩訶不思議、絡繰達のパレードを」


絡繰技師の声に反応し、跳びはね、踊る絡繰達。


すごいな、とヨミが呟く。ヨミは意外とこういうのが好きなのかなとアルドは思う。


絡繰達の祭宴は2時間にも及び、パレードの終わりの方では人だかりも疎らになっていった。


隣に満足そうな顔をしているヨミにアルドは本日の感想を聞いてみた。


アルド「楽しかったな。ヨミはどうだった?」

ヨミ「もちろん楽しかった!特にあの...」


ヨミが熱く語り、アルドがそれを聞く。

ヨミがアルドに熱弁している最中、ちょっといいかい?とヨミの背後から声がかかる。


振り向くとそこには先程の絡繰技師がいた。


絡繰技師「えーと、失礼かもしれないけれどキミはもしかして呂の国の人かな?」


ヨミ「そのとおりだが。ひょっとしてアナタも?」


やっぱりか、と絡繰技師は頷く。


絡繰技師「東方の中でもなかなか見ない衣装を身につけていたからもしかしてと思ったんだ。そうだね。僕も出身は呂の国さ」


絡繰技師「同郷のよしみで教えて欲しいんだけど、今日のパレードどうだった?何か足りない点とか教えてもらえるとありがたいんだけど」


足りない点なんてなかったように思えるほど、パレードは大盛況だったため、アルドには絡繰技師の意図を計りかねた。


しかしヨミは、

ヨミ「確かに凄かった。絡繰達の動きはスムーズだし、踊り舞う姿は人のそれだった。でも、そこには心がないようにも感じた」

と感想を述べた。


すこし失礼じゃないか、とアルドはヒヤヒヤしたが、絡繰技師はまんざらでもない様子だった。


絡繰技師「心か。確かに絡繰に心を宿すのは一筋縄ではいかないな。」


ははは、と絡繰技師は笑う。


絡繰技師「でも、心を写すことはできるかもしれないな」


アルド「心を写す?」


絡繰技師「あぁ、特に人型の絡繰には実際の人物のモデルがいたりするからね。写し身として機能する絡繰にはその人の心が写されてると僕は思うよ」


そうなのか、とアルドは自分の知らない世界に少しばかり興味が湧いた。


そうだ!と絡繰技師は何か閃いたようだ。

絡繰技師「ここで会ったのも何かの縁だ。もし良ければ君たちがモデルの絡繰を僕に作らせてくれないか?」


突然の提案に驚くアルドとヨミ。

アルド「俺たちの!?そりゃ光栄だけど...」

ヨミ「なんだか少し恥ずかしいな...」


まぁまぁ、と絡繰技師は2人を宥める。

絡繰技師「といってもすぐに作れるわけじゃないからいくつかポーズをスケッチさせて欲しいんだ」


アルド「余計恥ずかしいような...まぁ、いいか」

アルドが何種類かのポーズを決め、絡繰技師がそれをスケッチする。アルドの番が終わり、次はヨミの番だった。


もともと凛々しい彼女だが、ポーズをとっていても様になっているのが一目瞭然だ。

絡繰技師がスケッチの最中にあれ?と言葉を溢す。

スケッチの手を止め、そしてヨミのことをまじまじと観察して一言。


絡繰技師「キミはもしかして...」


ヨミは絡繰技師の発言に首を傾げたが、当の本人はまぁ、いいかと呟き、スケッチを再開した。


2人のスケッチが終わり、絡繰技師が告げる。


絡繰技師「東方に帰ったら早速製作にとりかかろう。それまで楽しみに待っておいてくれ」


アルド「あぁ、楽しみに待っておくよ」


それじゃ、と言って絡繰技師は2人に別れを告げ去っていった。


ヨミ「そろそろワタシ達も帰ろうか。ミトが待っているだろうしな。アルドもぜひ酒場にきてくれ」


少し考えた素振りをしたアルドであったが、久しぶりの再会もあってかヨミの提案に乗ることとした。


アルド「久しぶりにミトにも会いたいし、お邪魔しようかな」


アルドの返答に少し嬉しそうな顔をするヨミ。


ヨミ「そうこなくてはな。それじゃあ行こうか」


帰りの道中、ユニガンの街を歩いていると、目の前には祭宴で使われていた絡繰が無造作に置かれており、近づいてみた。


アルド「あれ?これってあの人の絡繰だよな。何でこんなところに...」


アルドの疑問が晴れる前に絡繰が動き出した。先ほどの祭宴のときには外されていた武器が装備されており、気づけば凶刃がアルドの頭をめがけて迫っていた。


ヨミ「あぶない!」


ヨミのおかげでアルドは間一髪、絡繰の凶刃を回避する事ができた。絡繰から次々と生える手一本一本に小刀が握られており、明らかな殺意を感じた。


アルド「た、助かったよ。ヨミ。しかしどうなっているんだ?」


ヨミ「考えても分からないな。今はこの絡繰を無力化することだけを考えよう」


アルド「そうだな。いくぞ!ヨミ!」


アルドとヨミ、初の共闘である。絡繰の凶刃を掻い潜りアルドは懐に一撃を与える。しかし、絡繰の装甲は厚く、斬撃が通らなかった。手数では圧倒的に相手が有利なため、斬り合いになると少し厳しい。

ヨミも例の唐傘で攻撃を与える。相変わらずのスピードだ。しかし、絡繰相手だとヨミの一撃は浅く、装甲を貫くまで至らない。


ヨミ「思ったよりも手強いな。どうするアルド」

アルド「脚を狙おう。他の部位よりは脆そうだし、壊れれば絡繰を無力化できる」


ヨミ「なるほど。では、ワタシの動きに合わせてくれ」

アルド「え、待てってヨミ。速いって!」


ヨミの異常なスピードに何とか合わせるアルド。

2人の斬撃の軌跡がクロスを描く。


絡繰は脚の機能を失い、倒れる。脚の機能は失っているものの絡繰はまだ動けるようでジタバタともがいていた。


ヨミ「ふぅ。何とか終わったな」

アルド「しかしまだ動けるのか。絡繰ってのは敵に回すと恐ろしいなぁ」

ヨミ「絡繰は痛みを感じないからな。攻撃を与えても怯まず反撃してくる」


ミト「おねえちゃん!」

突如、聞き覚えのある声が最愛の姉を呼ぶ。


ミトだった。アルド達がきた方向とは逆側の道からミトがその場に姉を迎えに来ていた。つまり、アルド達とミトの間には例の倒れた絡繰がいるような状況だ。

危ないと思ってか、絡繰恐怖症の妹を心配してか、ヨミはミトに警告する。


ヨミ「ミト!?今はダメだくるんじゃない!」

ミト「え?何で... あっ!」


みるみる青ざめていくミト。その視線の先には先ほど倒した絡繰がいた。絡繰恐怖症のミトにとってそれがどれほど恐ろしいものかは分からない。ただミトはその場にしゃがみこみ動けなくなった。


その瞬間倒れていた絡繰の腕が変形し、弓矢が現れる。突如絡繰の腕から放たれた弓矢がミトを貫く。


すぐさまアルドが絡繰にトドメを刺す。詰めが甘かった... 悔いるアルド。絡繰の目からは光が消え、機能は完全に停止した。


倒れたミトにすぐさま駆け寄るヨミ。ミトに放たれた弓矢は幸い急所を外していたが、ショックからかミトは気絶していた。


ヨミ「ミトッ!ミトッ!」


妹を必死に呼びかけるヨミ。次の瞬間、ミトは目を覚ました。意識は朦朧としていたものの何とか一命はとりとめているようだ。


ミト「...お姉..ちゃん...」


ヨミ「あぁ。お前のお姉ちゃんだ。大丈夫か?ミト。すぐに治療してやるからな」


ミト「...う..ん」


ミトの容体だが、急所を避けているものの貫通部の出血が酷かった。ヨミは自分の服の袖を破り、ミトに巻き付け包帯代わりに止血した。


アルド「すまない。ヨミ。俺が絡繰にトドメをさしておけば...」


ヨミ「謝るのは後だ、アルド。今はミト容体を優先しよう。とりあえず酒場の2階までミトを運ぼう。ここからなら近い」


アルド「よし。分かった」


酒場に着き、扉を開ける。マスターが店の準備をしており、急に入ってきたアルド達を見て何事かと心配する。マスターに事情を説明し、ミトを酒場2階のベッドに寝かせた。


ユニガンの医者を呼び、ミトの容態を確認してもらった。幸い命に別状はないようで、ヨミの応急処置が良かったのか出血も止まっているようだった。


ヨミはミトの側を離れようとはせず、必死に看病をしていた。


数時間後、辺りは暗くなり、ヨミも疲れたのかミトに寄り添う形で寝ていた。


さらに数時間後の深夜のことである。

ミトが目を覚まし、お姉ちゃんと呼びかける。

それに気づいたのかヨミも目を覚ました。


ヨミ「ミト!よかった。体調はどうだ?大丈夫か?」


ミト「う...ん...体調は大丈夫。それより...」


それより?ミトは何かをヨミに聞きたいらしい。心当たりはなかったがヨミはミトにたずねてみる。


ヨミ「何だ?何でも言ってくれ」


何を言われても可愛い妹のためなら何でもするつもりだった。でも最愛の妹から出た言葉は非情で何より不可解なものであった。


ミト「お姉ちゃん。アナタは本当はダレ?」


          第ニ話 「絡繰達の祭宴」 完

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