第7話

 山瀬と池沢は、再びあのファミレスで会っていた。


「先日は、ありがとうございましたー」


「どうだった?」


 ちょっと自信ありげな池沢に、山瀬は教授の言葉をそのまま伝えた。


「ええ……うーん、そりゃあ、まあ、そうかもしれないけどさあ」


 池沢はあきれたような顔で言った。


「でしょう? 先輩も納得いかないでしょう?」


「いや、納得いかないというか、何だかね。答えが面白みないなあって。でも、科学は実証性があること、かあ」


 池沢には山瀬の言葉自分が研究室を去った日のことを思い起こしていた。研究者という選択肢で悩まなかったかというと嘘になる。


「まあ、神崎先生からは、答えがなかなかユニークだったからってことでちゃんと単位はもらえたんですけどね」


 山瀬は頬を膨らませながらも嬉しそうに言った。


「……ところで、先輩」


 山瀬が上目遣いで池沢を見た。


「先輩も香水、つけるようになったんですか?」


 唐突に話を変えた山瀬。池沢はにやりと笑った。


「あ、気付いた?」


 山瀬は「もちろん」と胸を張る。


「いやね、あの香水の匂いを残したままにしてたら、いろいろな人のいろいろな反響があってね。ああ、これはつけてみようかと思ったわけだけど」


「……つまり、殿方から、高評価だったと?」


 山瀬がにやけ顔で聞く。池沢は髪を触る。


「高評価というか、二年ぶりに彼氏ができた」


「さっすが元研究室一の美少女ですね」


「もう美少女、という年じゃないかな」


「じゃあ、美人?」


「うん、それなら当てはまる」


 山瀬がジト目で池沢を睨んだ。


「えええとんでもない自画自賛」


「先に美少女って山瀬さんが言ったんだよ」


 言いながら、池沢は舌を出して笑った。山瀬も笑う。


 店内に二人の女性の笑い声が響いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホムンクルスはなぜ死んだ? たけ @take-greentea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ