第2話


 店員が注文した商品を置いて去っていった後で、池沢が切り出した。


「それで、今日は卒論の相談ってことでいいのかな?」


 山瀬の卒業論文のテーマは、池沢が学生時代にやっていた研究を引き継いだものだ。そのため、池沢は呼び出された理由が卒論についての相談だと予想していた。


「いえ、違います。実はちょっと先輩に知恵を借りたい事がありまして」


「知恵?」


「ええ。先輩、謎解きとかミステリーとか好きでしたよね」


「推理小説は結構読んでいたけど」


「実は、私、卒業に必要な単位が足りてなくて……神崎先生にお願いして授業に参加させてもらったんです」


 言いながら、山瀬はちろりと舌を出してみせる。


「神崎先生か。あの先生ユニークだよね」


 池沢は、記憶の中の神崎教授の姿を思い出す。白髪交じりの頭髪をオールバックにし、パリッと糊のきいたスーツを着こなしている。彫りが深く日本人離れしたその容貌は、さながら英国紳士のようであった。常に眠そうな表情をしていて、低い声で淡々と喋るので、彼の授業においては眠りに誘われる生徒が多数存在していた。


「ユニークすぎて困るくらいですよ。その神崎先生から訳のわからない問題を出されたんです。それを先輩に一緒に考えてもらいたくて」


「訳のわからない問題?」


「謎解きみたいな問題なんです。その答えを次回の授業までに考えてきなさいって。この問題には、単位がかかってるんです」


「なるほどね。卒論じゃなくて、そっちで切羽詰まってるというわけか」


 山瀬は深く頷いた。


「まず、その時の授業の内容から説明しないといけませんね。その日の授業では、化学の歴史の中での錬金術の意味について神崎先生は話していたんですけど……」



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