マルガリータ・クロイツとまちがいさがし 1
正直、
命の危険があるかもしれないバトル、そう始めは聞かされてたけど、実際に参加したふゆみの話を聞いて心の中でずっこけた。
野球拳、ジャンケンで負けた方が一枚づつ脱いでいく、下世話なゲーム、それも脆弱なコンピュータしか用意できない上に、思う通りにならなくなったら銃持ったスケベどもを、それも大して強く無い連中をけしかけて来たという。
内容、気概、共に底の知れたものだと舐めていた。
だから、小番稼ぎ、興味本位、そしてもう二度と関わり合いにならないようにと、これが最後と参戦した。
それで、転送された空間は、異常だった。
真っ白な空間、どこに光源があるかもわからないのに明るく、どこにも影のない世界、重力と空気があって、だけども最果てと正体がわからない。
試しに地面を蹴ってみても、硬いのか柔らかいのか、反作用自体が返ってこず、当然のように掘れない。まるでバリアのような、破壊不能な白い床がどこまでもまっすぐ続いていた。
これだけの規模の正体不明、そこまでも技術を持ちながらやらせることは野球拳、このギャップ、ひょっとすると途方もなく危険な存在と関わり合いになってしまったのではないかと思い始めていた。
と、文字通り眼前に突如として片手サイズの黒い箱が現れた。
反射的に受け止めると、箱の表面約半分を一つのスイッチが、残りを網目状のマイクかスピーカーが占めていた。
「あーテステス、聞こえてますかー?」
網目状から流れ出てくる声は女性の、それも若い声だった。
「これからあーしが次の競技の説明するからちゃんときいてねー」
砕けた感じ、まるで友達に話しかけるみたいなフランクさ、 知らず知らずに強張っていたマリーの肩の力を抜く。
「えーっとねー。二人が戦ってもらうのはー、これ『まちがいさがし』ねー。ルールはまんま間違い探し、これから転送した先の町? 街? がねー、こう。パタンと、真ん中でこう、なってるのよ」
頭は残念なようだった。
「えーー、これなんて読むの?
わからないけど、予測はできた。
つまり、これから街に飛ばされ、そこはある線から鏡合わせになってるから、それを当てろというのだろう。
予測はできた。けれども疑問はあった。
それを解消すべく、スイッチを押してみる。
「アロー。アロー。聞こえますか?」
「あもしもーし、聞こえる? あーしは聞こえてるよー」
「えーっと、マリーです。質問よろしいですか?」
「いーよいーよ、なんでも訊いて。あでも、正解がどこかとかは無しね。あーしも知らせてもらってないしー。それとプライベートなこともダメなんだってー。住所とか電話番号とかはわかるけどペンネームもダメとかおかしくない? こっちは二人のスリーサイズまで見れるのにさ」
言われて思わずドキリとするマリーだったけれども、それは外には出さないで済んだ。
「質問なんですが、この正解を応えるのは、この端末を介してでよろしいでしょうか?」
「そうに決まってんじゃん。他にどうやるってーのよ。ちょっとちょっと、大丈夫? そんなぼさっとしてると勝てないよ?」
イラっとしながらも、マリーは続ける。
「そうですか、ありがとうございます。それからもう一つ、これと一緒で良いんですよね?」
そう尋ねながらマリー、コックピットの中を見回す。
『鋼鉄人形エリュシオン』
全長が15.5m、重量が75tと人間のサイズを大きく上回る巨体は相応のパワーがあり、そこに霊子ビームに大剣装備と、はっきり言って生身の人間が勝てる代物ではない。
直接戦闘が無くとも、強力なカメラにセンサー類、二足歩行の機動力、外界から完全隔離されたコックピットと、強力だ。
……野球拳の時、相手は生身と聞いている。なら、鋼鉄人形の持ち込みは反則と言えるだろう。
そう判断しての質問、というよりも確認、だけれどもマリーが求めた言葉を聞く前に転送が始まってしまった。
余計なことばかり喋っていて、肝心なところが抜けている。わざとかしらと思ってる間に到着した。
予想通り、幸運にも、そして卑怯にも、鋼鉄人形も一緒だった。
戦うならば正々堂々、だったら降りた方がいいかも、と思うマリーだったが、センサーが拾った外の気温を知って今はまだ早いと判断した。
照りつける太陽の下、場所は立体駐車場らしき建物の屋上、街を一望できた。
見たところ全部が白色、建築デザインは五百年ほど昔、人が宇宙に出られるようになったかどうかぐらいの古いもの、だけど材質は白い石だけの様子でガラスなどは見当たらない。
同様に車や植物などもなく、それこそ石碑の表面のように白い石を凸凹にしたような感じで、街が作られていた。
道路、ビル、スタジアム、そして橋、橋が架かってるのは砂の川で、それを境界線として左右対称となっている風に見えた。
つまり、あっちとこっちとを見比べて、差異を、間違いを見つける。
そのためには色々と移動しないと、そう思ってると、不意にある一点、遠くの向こう、川を挟んだ向こう側のスタジアムの中に光の柱が現れた。
同時に鳴り響くドラムロール、それが終わると同時にピンポーンと鳴り響いた。
「早速一問目、せいかーい」
端末から聞こえてくるのはあの『あーし』の声、それよりも正解されたことに、マリーは目を見開いた。
「そのとーり。競技参加者がそれぞれ降り立った場所、それが違う、でしたー」
言われて、ありそうと思えるマリー、そしてそれを先に答えられたこと、それが意味すること、相手が賢く、身軽で、つまりは強敵だと、認識できた。
「やりじゃない」
悔しさ混じる一人言、まるでそれに応えるように、スタジアムから色が立ち上がった。
明らかに動いて、そして周囲の白とは違う外見、だけども建物のように巨大なこの鋼鉄人形よりも三倍は大きい人の姿に、マリーは対戦相手も舐めてたと、思い知らされた。
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