第14話

「それにしてもあんたならわざわざ図書館なんか来なくても学校に自習室とかあるんじゃないの?」

 「あれ?俺、自分の高校のことって話したっけ?」

 「言わなくてもこの辺で一番賢そうな学校だとT高じゃないの?」

 憶測だが昔見た高校紹介の学生服の欄に載っていた服に吉野の服は似ている。

 「まぁあってるけど。自習室は無いよ。基本的に俺の高校って教室に残って勉強するか他の高校みたいに図書室でやるかだから」

 以外だ。てっきりこの辺りでは一番賢いT高にしかも私立の学校に自習室も無いなんて。

 「俺らの学校ってなにか実験するとかの器具とか図書室の本とかそっちにはお金は贅沢にかけるけど、別に自習室なんてなくても勉強は出来るからいらないだろうってことで昔はあったらしいけど今は隣の図書室の壁をぶち抜いて本棚になってるんだよね」

 「それじゃ家か学校ですればいいじゃない」

 「それを言ったら京もそうなるじゃん」

 自然に下の名前を呼んできたことはひとまず置いておく、確かにそれを言われては元も子もない。しかも私の場合、逃げてきて落ち武者がたどり着いた先なのだから。

 「まぁ誰でも落ち着くところってあるでしょ。学校でやるとつい他のやつと遊んじゃうからさ。俺、結構おしゃべりだから」

 ニコニコと笑いながらそういう吉野は初対面の印象とは全く違う明るい青年に見える。少なくとも表向きはだが。

 それに彼の言うことは最もだ私自身、他の図書館や学校ではつい集中力を切らしてしまいがち出し家となればなおさらだ。毎日、机に向かうようにしているもののすぐにスマホを見てしまったりテレビを観ていて親に文句を言われる。特にこの頃は成績が落ちたことから露骨に嫌味を言うこともある。父は温厚な性格なので味方にはなってくれるが仕事が忙しく話もできない日もある為、結局、私と母の小競り合いが父の知らないところで起きていることに気がついているのだろうか。

 「まぁ私もそんな感じだし、さっきのは謝るわ」

 「別に謝るような事は京は言ってないよ。ねぇ湊ちゃん?」

 「えゅてっ、そっそうですね」

 オロオロしているところにいきなり話を振られたものだから彼女の口からは聞いたことない言葉が出た後、吉野に同意することはをひねり出した。その姿に私と吉野は思わず吹き出してしまった。勿論、司書さんの静かにというジェスチャーは頂いた。

 「そうですよね。私も学校だと友達と勉強会しようって言っておいて結局、おしゃべりばかりでこのままじゃまずいって思って一人で図書館に来るようになったんですけど丁度、お二人に会えたから良かったなぁって」

 「いや、こうやっておしゃべりしてるからそれはどうかな?まぁ大体は俺のせいだから湊ちゃんは悪くないけど」

 「そうよ。成績が下がったらこいつのせいよ」

 「流石に京の成績は自分のせいでしょ」

 痛いところをついてくる。

 「まぁいつも通り一旦区切りのいいところまで勉強しようか。せっかく居場所を見つけたんだから」

 吉野の言葉に少し含みがあるように聞こえたがそれよりも自分のことだ。いつものように問題集を広げてその後は三人とも黙々と勉強を始めた。勿論、時たま、吉野が湊ちゃんに教えているのを見て、私もそのぐらいの余裕が欲しいなと羨ましく思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

逆立ちする音 無色不透明 @nnasineet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ