第13話

結局、その日はどこで勉強するかを迷った結果、湊ちゃんにまた会えるのではと勝手な期待からいつもの図書館へ向かう。他のみんなが予備校や家路を目指す中、少し違う方向の私をみて「あれっ?」と思うクラスメイトもいた様だが理由をさらっと話すだけで何となく理解してくれる。この辺りは自分と周りの感じ方がそれほど違っていないのだと思えて少し心が楽になった。

 ちょうどさっきいつもなら同じ方向の男の子も私が考えていたことを代弁するかの様に語ったあと予備校があるからと反対方向へ帰って行った。

 意外とみんなそんなものなのか。とちょっと安心するとともに湊ちゃんのことを思い浮かべる。あの子、うちの高校を受けるんだよね。私もきっとあの頃は同じだったのだろう。そして来年は今よりもっと私はあの子と同じ気持ちになるのだ。二人揃って同じ気持ちを共有する中、吉野は飄々と難題を飛び越えて行き湊ちゃんの手をとって私の手を取るフリをして離してきそうだ。きっとそうだ。

 対して、離した訳でも無く彼のことをよく知らないが私はそう決めつける。

 ただどこか、そんな彼は印象だけで実際には助けそうだなという。矛盾の気持ちも湧いてきていた。それは彼に対する好意というよりは彼が人をからかうことがあっても蹴落とすことは無いだろう。そのぐらい彼と私には差がある気がして勝手に腹が立った。

 

 どうも腹を立てながら図書館を目指すと少し遠い距離も気にならないほどあっという間に着くらしい。これはいいことを知った。これからここに来る時は吉野の悪口を考えながら歩くことにしよう。そんなことを考えながら入り口を通り抜けようとした時、後ろから声を掛けられる。

 「京さん、こんにちは」

 ちゃんと「さん」をつけたこの可愛らしい声はきっと彼女だ。振り向き挨拶をする。

 「湊ちゃん、こんにちは」

 隣に吉野がいたが視界から外す。

 「おいおい、俺は無視?」

 「あなたこそ、私に挨拶してないじゃない」

 「確かにそうだ。それは失礼なことをした。こんにちは京」

 「こんにちは、吉野。そして京呼びを許したっけ?」

 「俺の中では許したよ。そっちも俺のことを下の名前で呼んでくれてもいいんだぜ」

 「もう忘れたし、他に覚えることがあるのよね」

 私たちのやり取りにおどおどとする湊ちゃんを見てひとまずこの目立つ入り口でしょうもない話は切り上げよう。三人で何故か三人で席の確保をする。

 「あなた、ここに来なくても大丈夫なんじゃ無いの?」

 「いや、これでも勉強は継続が大事だし、彼女に教える約束もしてるんだ」

 それなら私がと思ったが悔しいことにきっとこいつの方が頭は良いし教え方もうまそうだ。

 「それならしょうがないわね」

 そう言われてみれば私は彼女の連絡先を知らないがこいつは知っているということだろうか?それが気になりついでに連絡先も聞こうかな?と図々しくも年上の特権を使うことにした。

 「湊ちゃん、私と連絡先交換しない?」

 「ほんとですか!嬉しいです」

 喜んでくれた様でほっとした。ポケットからお互いにスマホを取り出し連絡先を交換する。

 「あれ?俺のは?いらない?」

 「湊ちゃん経由でいいでしょ」

 「俺が欲しいんだけど」

 あっさりと口に出すあたりこいつから湊ちゃんを守らねばと決意の連絡先交換と吉野とした。

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