第12話

涼子に言われて改めて図書室を見ると図書館に近いな。そんな印象を受けた。そう言った意味では最近通っている図書館もそれに近い。

 新しい図書館には何度も通っているし最近がむしろ行っていないほどでちょくちょく勉強場所として利用していた。サラリーマンのサボり場としても開放的でカフェもあるおしゃれ空間なので勉強している気になれるあの場所はモチベーションを上げるには最適だと思う。それが結果につながるかは分からないとしても少なくとも私は通っていてその自分に酔っていたのかもしれない。そう言った意味では私はそれを体験しているのが今の時期でよかったのかもしれない。

 ここまで批判をしておいて何だがあの空間自体は好きだ。本を広げてコーヒーの香りを嗅いで勉強をして、良い場所だと思う。ただ図書館としてはちょっと違うのかな?と思えてしまった。どちらかといえば本もある施設、なのかもしれない。箱物市長がどこまで考えていたのかは分からないがそれも必要なことなのだろう。

 ただ今の私に必要なのは学校の図書室やあの男がいる図書館なのかもしれない。そう思いながら図書室に入る。制服姿の人間で本を手に取る者はあまりおらずほとんどが受験勉強のスパートと言った感じでキッパリと読書する者と自習する者とで分かれている。ただ静かさだけが共有されておりこの無音に近い感じは図書館を感じさせる。今日はここで勉強しようかな?と思いながら短い始業時間までの間を無駄にしたことをチャイムに教えられ、再び教室に戻る。

 何とか担任が来る前には滑り込み隣の涼子に「どこ行ってたの?」と小さな声で話しかけられる。答えようと体を寄せるとガラッという音と共に担任が入って来たので急いで体を机の方へ戻す。

 一瞬こちらを見ていた気がしたが気のせいだろう。そのまま、朝の朝礼と入れ替わりで一限目の数学の教師が入って来たので涼子には答えられずじまいだった。

 まぁいい。大した話でも無いのだから、図書室に行っていたなんて話題に食いつく女子高生などどこにもいないだろう。いるのならぜひ紹介してもらいたいぐらいである。お礼にあの吉野を紹介してやってもいい。性格はイマイチかもだが頭はいいので人気は出るだろう。というより既に彼女がいるかも知れない。

 考えてみればあいつの通っている高校を聞いたことは無かった。ただあの時間にあの場所の図書館を利用しているぐらいだ。同じ高校なんてことは無いはずなのだが少なくとも頭の良さからそれなりの学校には通っていそうなのだがこの辺りで一番の学校は公立では私の通うS高校か私立だとT学園だ。おそらくT学園なのだろう。と勝手に予想する。しかし何故こうもあの男のことを考えなければいけないのだ。よくよく考えればこれでは私がまるでやつに惚れている見たいでは無いか。頭から吉野の顔を排除するために湊ちゃんの顔を思い浮かべる。

「可愛い子だったな・・・湊ちゃん・・・」


結局、ただの変態みたいに頭の中がなっていることに気がついて悲しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る