第11話

 二人でたわいもない会話をしながら教室へ向かう。廊下ですれ違う友達に挨拶をしながら自分の席に着く。

 「そういえば、最近は文芸部の方は活動してるの?」

 私が幽霊部員なのを知っているのでこれはどちらかと言えば「図書館に通っているの?」という言い方に近い。

 「いや、最近は結構、三年が使ってること多いし本も新しいのは大体読んでるしね」

 念の為、文芸部として弁解をしておくが私自身は書籍を読むことは好きだ。ただ特定のジャンルを読んだり考察するといったマニアックなことまではいかない。ただ現実と自分とを切り離したい時に利用する。読んでいる間はそこに自分が存在しているかの様に溶け込める。そう言った意味ではストーリのある本を読むことが多い気がする。蔵書の数から言えば私が手に取った本の数など小数点以下では無いだろうか。そう思えるほどに充実はしている為、公立高校ということもあり土日も図書館を開放している。閉まっているのは盆休みと正月などの時期ぐらいだ。司書さんは複数人いるのでシフト制で常に誰かがいるとは言えなかなか忙しいはずだ。おまけにこの時期は三年生等が自習スペースで受験勉強の最後の追い込みをしているので仕事も音を立てない様に気を使っている。どうしてこんな高校の中に無駄に大きな図書室を作ってしまったのだろうと思い、文芸部の部長に聞いたことがあるが市町村合併の時に図書館を統一して一つの箱物を建てる計画があったそうだが談合していたことがバレて白紙に戻り、結果的に行き場を失った有象無象の本たちは一部の重要文献を残して廃棄も検討されたそうだが当時の校長がスカスカだったこの図書室の本の少なさに嘆いていたところにこれ幸いと頂いて来たそうだ。処分費用もかからないし置き場があるのならとそのままS高校の図書館に置かれることになったのだが問題は図書館がなくなるという問題が解消されなかったことだ。結局、散々揉めに揉めた挙句、司書を雇い地域に開放するということで決まった様だが。その後、箱物大好きおじさんが市長になったことから新しい図書館が作られるというオチがあり今に至る。

 ちなみにその新しい図書館は有名な建築家に依頼し当初は話題を呼んだが蔵書がスカスカのハリボテと分かると学生たちの自習やフリーランスと思われる社会人の勉強部屋や仕事場としての役目をする傍ら最新トレンドのラノベや漫画などのポップカルチャーに舵を切ることで棲み分けが出来ているらしい。めでたしめでたし。

 そんな歴史ある図書室を受験勉強に使うのは勿体無いなとも思いつつも静かででも紙の擦れる音、匂い、誰に言うでも無いぽつりと漏れる本への感想、そんな空間が好きでよく通っていた。というよりは少し前の模試の結果を見るまでは入り浸りだったかも知れない。そう言う意味では私は罰当たりな幽霊部員だ。

 「そんなことよりそっちの調子は?もう直ぐ大会でしょ?」

 「まっかせなさい!バッチリよ。今年も全国狙ってますから」

 小さな体が頼もしい。自身ありげな涼子の声に力を貰った気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る