第10話

 夕食後、部屋に戻り勉強の続きを始める。母は根を詰め過ぎない様にね。と言いつつ期待と言うプレッシャーを言葉に乗せてきてそれが肩に重くのし掛かる。と言っても今日は少し気が楽だ。図書館で彼女に会ったからだろうか年齢は違えど同じ悩みを共有し合えたことや自分の頑張りを褒めて貰えた気がして気持ちが楽になったと私は勝手に思い込んでいる。若干、横に邪魔な男がいた様な気がしたけれどそれもご愛嬌だ。

 苦手な化学の問題を解きながらふと考える、当たり前のことだけれども自分と同じ感想、不安、やる気、それらは強弱は人それぞれ違えど他人には見せなだけなのだろう。そんな当たり前の事実を心の中で再確認する。ただあの男だけはちょっとその人の理から外れた人間では無いかと本人のいないところで失礼な考えを思い浮かべる。

 いや、きっと何か隠しているのだろう。今度、会ったら見つけてやろう。そう思うと何故だか苦手な科目にも身が入りついつい夜更かしをしてしまった。


 次の日、いつもの様に登校すると上級生の中にはすでに推薦など進路が決まった者とこれから進路のくじ引きの当たりを引く確率を上げる為に一秒を無駄にするものかと考えているだろう者やなる様になる。引いたくじが当たりでもハズレでも構わないそんなグループとに分かれているのが見て取れる。

 「来年は私たちがあぁなるんだね。そう考えると気が滅入るなぁ」

 玄関で靴を履き替えている時、ふと後ろから声を掛けられる。振り向かなくても同じクラスの友達だということは分かる。

 声の主というほどでも無く小柄な体型をした少女と言っていい友人が声を掛けてくる。

 「涼子、おはよう。私も今全く同じこと考えてた」

 「そうなるよね。あんなの毎日見せられたら」

 「まだ新学期が始まった頃はそうでも無かったのにね」

 「そりゃ推薦狙ってるようなしたたかさのある人は真面目におとなしくしてるし、部活動もこの学校、結構ギリギリまで参加させて貰えるからね。だから私、この学校を選んだんだけど」

 涼子は小柄な体に似合わず弓道部に所属している。私は名目上、文芸部に所属しているがほとんど幽霊部員に近い。そもそも文芸部自体、取り敢えず何かに所属していないと不安だがそこまで部活に青春を掛けていないという他校の文芸部に叱られてもおかしく無いほど活動が少ない。活動場所も図書室の横の教室を利用しているがほとんどが最近読んだ本の感想を話し合ったり、隣の図書委員を兼任して好きに過ごしている者もいる。学校側としても所属する部活が何かしらあることは良いことであるし少なくとも問題を起こすことなく一応は文化祭などのイベントでは同人誌などを販売したりなどとゾンビの様に生きている為、放置している。顧問もその流れで学校の司書さんが担当している。ただの高校に図書司書が所属しているのは珍しいがそれもこの辺りでは珍しく書籍が充実しているからだろう。特に街の周辺に関する文献等が何故か市では無くこの学校で管理されていたりするほどで偶に、別の学校や大学生などが図書を借りに来ることもあるその為、専用の担当者がいつでも対応できる様にという市の配慮により所属しているらしい。よって顧問をするというのも変な話ではあるのだが誰も気にしていない。司書本人すら。そんなおおらかな学校が私の通うS高だ。

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