第8話
「実は私、最近成績が落ち込んでて・・・でも親には言えないしそしたらお兄さんが声を掛けてきて」
「何だ。問題に悩んでるんじゃなくて自分の悩みかって。まぁ問題なのは一緒だけど。解法が決まってないから超難問だって話してたところかな?」
湊ちゃんの丸で私とこの男の関係を拗らせてごめんなさいという顔を見て腹がたつ。この男に。
「湊ちゃんって呼んでもいいのかな?」
「はい、明石さん」
「私のことも下の名前で呼んでくれていいわよ」
「京はさ、もしかしてやきもちでも焼いてたの?」
「あんたに言ってない。しかも呼び捨て」
「いいじゃないか。同い年何だし。俺のことも誠司って呼んでくれていいよ」
呼んでやるか。そもそも下の名前、今、名乗っただろ。
「京さんの制服、S高ですよね」
「そうだけど・・・」
「実は私、まだ中二だけどS高を受験するつもりなんです。でも模擬試験の成績がイマイチ振るわなくて親は特に関心が無いし先生は次の模試の結果次第で別の考えも探そうって・・・でもまだ1年もあるんですよ!それなのにそんな簡単に諦められないし。だから京さんはどうやって勉強してたのか教えてもらえないですか?」
突然の申し出にたじろぐ。そもそも状況が私と全く同じすぎて困ってしまう。
「教えてあげなよ。気晴らしにもなるだろうし」
人ごとだと思って軽い言葉でこの男は道を塞いでくる。しょうがない。湊ちゃんには悪気は無いのだし、こいつと違っていい子そうだから守ってあげないと。そんな親の様な本能に動かされひとまず私の勉強道具を片付ける。
「わたしも奏ちゃんと同じ時期は結構進路に迷ったんだよね。成績的にも50%ぐらいだったし後、私の場合は内申点が悪かったからもう最悪、一つランクを落とすか私学を行かせて貰えるか頼もうかなって思ってたりしたんだ」
私の話を前のめりになって聞いてくる彼女を見て自分の記憶を掘り起こす。そういえばそうだったな。そんなことがポロポロと溢れ繋がり出す。
「親もなんと無くは察してたんだけどまだ中二だったからそれほど悲観して無かったと言うか、あまり教育熱心では無いけど最低限のことはしなさい。しかもその最低限が割とハードル高いんだよね。そんなの出来るか!絶対に最低限じゃ無い!って」
「わかりますそれ!うちも結構、今のところは塾とかに行けとは言わないんだけど中三になったら塾に行くのが普通でそれである程度の学校に行けるでしょ?って感じなのですごく分かります」
同士を見つけて嬉しかったのか、最初は遠慮気味だった彼女は自分の方から話し始める。それをまた自分の記憶を掘り起こしちょっとだけ脚色して伝える。
気がつけば、図書館の閉館時間を知らせるチャイムが鳴っていた。
「ごめんなさい。私、自分のことばっかりで京さんの勉強時間奪っちゃった」
「いいよ、先にきて少しはやってたしたまにはこうやって話すのも楽しいからね」
「俺と話すのは?」
いつの間にか、馴染んできている吉野こと誠司とやらは何やら距離感の詰め方が太々しい。この可愛い奏ちゃんを見習って欲しいものだ。
「ノーコメント!」
そう言って三人で外に帰る為の荷物を片付ける。何だか私の頭も少しスッキリ片付いた様な気がした。
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