第5話
昔からそうだったのかもしれない。引けばいいところで引かずどうでもいいことで粘る。そんな要領の悪い子。それが私だった。
幼稚園では男の子のおもちゃを取り上げて、小学生では通信簿にも「少しおてんば過ぎます」と言う先生からの親への言葉。
それを見てから中学生デビューを図りメッキの貼り付けに成功して今に至る訳だがメッキも貼り付けていると馴染んでくる様で高校生になった今はそれほど外で意地になることも無く何と無く引くと言うことを覚え始めていた気がした。それが大人になる準備なのかも知れない。
ただ今日は何があった。朝はいつも通りにトーストを食べ学校でもたわいもなく過ごした。ただこの場所に座っていた。今この前にいる男子高校生に面倒と思わせたい。
それだけが私を支配した。
「正直に言うと言動全てに今、苛立ちました。あなたが悪い訳では無いので雷に直撃した不幸な僕とでも思って下さい。それだけ頭がいいならバランスを取らないと」
男子高校生は理解が早くそして全てを受け入れた。
図書館の司書さんが私を押さえ込むまで私は日頃の鬱憤から何から何まで彼に投げつけた。それを彼はただ一つ一つ拾っていった。
言い終わった後は最後の言葉だ。
「「ごめん」」
何故か二つ声がした。
司書さんに叱られたものの彼が色々と上手く誤魔化してくれたお陰で事が大きくなることは無かった。幸いにもこの図書館には人があまりいない。それも功を奏して特に今後の利用制限を受けることも無かった。ただ彼に借りを作ったことは腹が立ったのだが。それを彼に言うと大爆笑された。その笑い声に司書さんが何も言わなかったことにも腹が立ったと伝えたら、再び彼は笑顔になった。
私もこの日初めて笑った。
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