第4話

 「結構、勉強できるって思ってるんですよ。私」

 いきなりの自慢の様な話にも彼は自然に話を聞いてくれる。

 「でも本番になるといつも何かやらかすんです。模試だから本番でも無いか・・・それでも先生や親を説得する材料として考えれば充分本番の価値が模試にはあるんです」

 「そうだね。模試とは言え学校や予備校の先生達は合格させることが目的だから交渉材料と考えているなら君にとってそれは本番と同一だと思うよ」

 否定もせず聞く彼が今度は自分の番だと口を走らせ始める。

 「僕が目指している大学はここなんだ」

 そう言って手元のスマートフォンで大学のサイトへアクセスしたものを見せてくれる。そこには私とは天と地、同じ悩みを抱える高校生と思えない有名大学の名前が載っていた。

 「何だか、同じことを言っているのに全然、違う世界の話をしているみたいに聞こえるわ。自分、って何なんだろうって」

 「それは落ち込んだと捉えるべきなのかい?それとも自分の悩みは些細なことだと思ったということかい?」

 顔に似合わず意地の悪い質問をしてくる。

 「どっちもよ」

 あえて両方と答える。そして彼と話をしたことを後悔し始めている自分がいる。

 これも全部、こいつが悪いんだ。私の席の横に座り、私より優秀で、私より・・・彼は私にどんな感情を抱いたのだろう。ふっと頭の中身が切り替わる。いや、現実から逃げている。それでもいい。

 「あなたはその大層な頭を持ってどうするつもりなの?」

 「何だか面接を受けている気分だな。どうも僕は人を不快にさせる天才のようでね。もしすでに手遅れだとは思うがまだ間に合っていたら事前に言っておくよ」

 「安心して、すでに手遅れよ」

 「そうか、それならそれでいいんだ。そう思った上で君はここに居て僕の話を聞く姿勢をとってくれている。これだけで僕は幸せなんだ」

 ただの大人スキルが低い青年の言い訳を聞かされ続けている気がしてペースを握られている気がする。どこかで取り戻さないと。

 「ところであなたはいつもここで勉強しているの?あなたぐらいの成績なら予備校や学校に勉強スペースがあると思うけど」

 「もし君の勉強スペースを荒らしてしまったらごめん。特に意味は無いんだ。僕がここで勉強をする意味は、学校にも自習室があるし家で集中出来ないタイプって訳でも無いんだ。後、残念ながら予備校には通っていないからそういった意味では場所が無いと言えるのかな?」

 つまり要約すると僕は賢い。そう捉えてしまった。

 「今、すごく僕に対する好感度下げたでしょ?」

 顔に露骨に出ていたらしい。

 「君の言いたいことは何となく分かるよ。それに君の場所を奪うつもりは無かったんだ。ただ、図書館で勉強をする自分というものがどういった者なのか、他者から見てどう見えるのか。それを体験してみたかった。後は単純に借りたい本が学校には無くて、検索したらここに貸し出されていない物はあったからなんだ」

 これで納得してくれただろうか?そんな顔をこちらに向けてくる。

 しかし私としてもこのまま引き下がる訳にはいかない。いや、別に下がる下がらないと言う問題では無い。そんなことはどうでもいいことである。

 そう私は面倒な人間なのである。






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