第3話
ハッと心が現実に戻って来る。
声のする方を見ると彼が私を見ていた。
「集中してたならごめんね。何か上の空でどこか具合でも悪いのかと思って」
近くで見る彼の顔は整った顔立ちでいかにもモテそうだ。
「あっ私何かじゃまになるようなこと口走ってましたか?」
一瞬、心の声が音になってしまっていたのかと思い焦って椅子を倒してしまう。
「そんなこと無いよ。すごく真剣にノートを睨みつけてたから僕より真面目な人だなって。思わず声を掛けちゃった。勉強の邪魔だったかな?」
優しそうな顔から心地よい声。声と顔が一致する。まるで小説を読んでいて自分の中でイメージするキャラクターのようだ。
「いえ、全く。勉強に真剣などころか成績が伸び悩んでて悩んでたところです」
特に答えるつもりも無かった自分の悩みをスルリと走らせてしまう。
「そっか、今、何年生?」
「高三の受験真っ只中です」
「なら僕と同じだね」
そう言って自分の解いていた問題集を見せてくる。
「僕も勉強ばっかりで嫌になっちゃうよ」
言葉ではそう言いながらもそれほど苦に感じていない様にも聞こえる。
「不思議だよね。ちょっと前に同じことをやったばかりなのに、もう繰り返さないといけないなんてさ」
高校受験のことを彼は言っているのだろう。
「ほんとですよ。まぁ中には一回切りで済ませちゃう子もいるんでしょうけど。残念ながら私はハズレの方かな」
「じゃあ僕もハズレだ」
私の言葉に乗ってくるがとても彼が私と同じハズレだとは思えない。少なくともさっきまで彼が解いていた問題集は私にはお手上げだ。
「十分、当たりだと思いますよ」
「えっ?」
「だって賢そうだもの」
「どうなんだろう。自慢では無いけどそれなりの進学校には行っているし、希望の大学も判定は悪く無い」
ほら、やっぱり。
「でも、それでも結果が全てだから」
彼の言う結果には色々なものが詰まっているような言い方で苦しさを感じた。
「そうですよね。ちょっと気が楽になりました。私、ここのところ伸び悩んでて、今日も親になんて言おうって考えながら帰る時間をここで引き伸ばしてたぐらいだから」
何故だか分からないが初対面の彼に愚痴を言える辺り受験生としてお互い共感できる部分があるのだろう。彼の纏っている雰囲気にも原因があるのかもしれない。
それからパタリと解きかけのノートにペンを挟んだまま閉じ、快適過ぎるほど暖められ乾燥した少し重力を感じた口を広げる。
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