第2話 自己責任で

「ねえ、あんた私が孤立する前に仲が良かったグループって覚えてる?」

「ああ、覚えてる。鉄仮面のグループだろ」

「て……鉄仮面?」

「中村だよ」

「え……由美子って男子鉄仮面ってよばれてん?」

 男子にも?


「いや……俺だけだ、あいつの目が笑ったところ見たことないからな、心の中でいつも鉄仮面って勝手に呼んでたんだ」

「あははは、いいセンスしてるよ蒼井、一部の女子の中では実際にそう呼ばれてるしね」

 鉄仮面……女子にもそう呼ばれてたんだ。

 ていうか……笑顔が反則級に可愛いじゃねーか……神谷。


「で、その鉄仮面がどうしたんだ」

「ていうかさ、先に保健室いかね?」

「なんでだ?」

「えっと、私がやっといてなんだけど、あんた血だらけだし」

「ああ……鼻血だろ、気にしなくていい」

「いや、私が気になるからさ、一旦治療させてよ」

 気になるのなら仕方ないな……もともと俺が悪いんだし……従おう。


「分かった」

 とりあえず、俺達は保健室に向かった。

 だが、既に保健室は閉まっていた。


「……うーん、仕方ないから家来る? 近くだし」

 な……なに! 神谷の家に? ま……まさか。


「え……エッチなことさせてくれるの?」

「ちょんぎるよ?」

 超絶笑顔で返された。


「ごめんて……冗談だって」

「いや、アンタだけは、その冗談使えないから……覚えておいてね?」

 ごもっともだ。


 そんなわけで俺達は、早速神谷の家に向かった。


 ——神谷の言った通り、本当に学校からすぐ近くのマンションだった。

 徒歩5分ってところだ。


「ただいま〜」「おじゃまします」

 実は俺……女の子の家に上がるのは、生まれて初めてだったりする。

 そんなもんで、めちゃくちゃ緊張している。


 “ただいま”なんて言うから、家族が居るものだと思ったが、神谷の家には誰もいなかった。


「なあ、もしかしてひとり暮らしか?」

「そんなわけ無いじゃん、お姉ちゃんと二人暮らしだよ」

 一瞬ひとり暮らしなら、神谷と付き合ったら神谷ん家でエッチな事し放題じゃん! と思ったのは内緒の話だ。

 それにしても、お姉ちゃんと二人暮らし……家中がめっちゃいい匂いだ!


「ねえ、蒼井……匂うのはいいけど、もう少しさり気なくやろうな」

 思いっきり匂いを嗅いだら、しっかり注意された。


「そうだ蒼井、シャワー浴びてきなよ」

 なぬ?!

「え! それってエッチなこと」

「し・な・い・よ」

「ごふっ……」

 笑顔と共に強烈なボディーブローを一発もらった。


「次は本気で殴るからね」

 恐ろしい……今のボディーブローが本気じゃないだなんて。


「ていうか……なんでシャワー?」

「だって……血だらけで顔面ホラーになってるし、身体中砂だらけじゃん。私が蹴りまくったから」

 まあ、確かに。

「顔洗うだけじゃだめなのか?」

「うーん……ぶっちゃけ部屋汚れんのが嫌なんよ……服も綺麗にしとくからシャワー浴びて来てよ」

 まるで汚れ物扱いだ。

 まあ、実際汚れまくってるけど。


「分かった……従うよ」


 そして女2人暮らしのバスルームを借りることになった。

 女2人暮らしのバスルーム……なんか家のと全然違う。

 お湯を張ってなくてもいい匂いだし。

 聖域感が半端ない。

 ……このシャンプーとか勝手につかってもいいのかな?

 なんて考えながらも、迷うことなく勝手に使った。

 うん……すげー良い匂いだ。

 これは神谷と同じ匂いだ。

 体を洗う用の網網の泡立てるやつは……流石にやめとこう。いくら俺でも良心が痛む。

 でも……ボディーソープは借りますよ!

 これもめっちゃ良い匂いじゃん。

 俺は今、神谷と同じ匂いだ!

 なんかそれだけでテンションが上がってしまった。


 ——そして感動のシャワーから出ると、フェイスタオルと布面積が超少ないパンティーが一枚置いてあった。

 おや?

「なあ神谷、俺の服どこやった?」

「あ……全部洗濯しちゃった」

「え……パンツも?」

「うん、変えの下着置いてあったでしょ」


 変えの下着って……この布面積が超少ないパンティーのことか。

 両手で持って、いくら広げてみるとティーバックだった。

 ……マジか。

 神谷こんなの履いてたんだ。


「そのパンティー使っていいよ。ビンゴで貰って使いどころなかったし」

 くそっ! 使用済みじゃなかったのか!

 にしても……これを俺に履けと。


「もし俺が新たな世界に踏み込んだら神谷、お前責任取ってくれよ」

「やだよ、自己責任で」

  

 ぐぬぬぬぬぬ!

 背徳感とか、嬉しい気持ちとか、腹立たしい気持ちとか、恥ずかしい気持ちとか、色んな気持ちが入り混じってくるんだけど!


「ねえ、早くおいでって、もしそれ履いてこっち来たら、エッチなことさせてあげるの、考えてもいいよ」


 ま……マジか!

 俺はフェイスタオルで全身を拭き、用意されたパンティーを履き、神谷の部屋に向かった。


 パシャッ!


 え……、

 そしていきなり、スマホで激写された。

「もし、少しでも変なことしたら、SNSにこの写真投稿するからね」

「はい……」


 色んな希望が無くなった瞬間だった。


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