第8話 お兄ちゃんは渡さないっ! 6

「これ以上、ルリちゃんをイジメるなぁあ!!」


 ハルカの魔力に呼応して、魔法杖の青水晶が強烈な光を放つ。次の瞬間、刃渡り2メートルはありそうな、幅広い巨大な白銀の刀身が青水晶の先に創り出された。


『これは…マジカルソードっ!?』


 新魔法の発現に、ベルは驚きの色を隠せない。


 マジカルソードとは、一撃必殺のマジカルハンマーとは違い、術者の魔力依存による継続発動系の魔法である。


 一撃の威力はマジカルハンマーに劣るが、継続発動による長期戦が可能な万能型の魔法なのだ。


「あらら、親友のピンチに新たな魔法ちからに目醒めるなんて、まるでアニメの主人公ね、ハルカ=ネオランド」


 ミサも少し驚いたように目を見開いた。


「やあーーぁぁああ!!」


 ハルカは駆け出しながら、右肩越しに両手でマジカルソードを振りかぶる。そして眼前に捉えた黒猫目掛けて振り下ろした。


 しかしミサは、難なく余裕で横に躱す。


 マジカルソードは大地を斬り裂き、地面に10メートル程の亀裂が走った。


 ハルカはキッと視線をミサに向けると、左手一本でマジカルソードを横に薙いだ。


「うひゃっっ!」


 驚いたミサは後方に飛び上がると、バク宙を繰り返しながら距離をとって着地する。


 そのときグラウンドの端に立っていた植木が、スパンと斬り倒された。


「あらー、なかなかスルドいじゃないっ」


 ドシーンと倒れた植木に目を向けながら、ミサは面白そうに呟いた。


「逃げるなっっ!」


 ハルカはマジカルソードを両手で横に構えながら、再びミサに向けて駆け出していく。


「それじゃ、お言葉に甘えてっ」


 ミサはハルカの横薙ぎを前に跳んで躱すと、ハルカの目前で前脚の肉球を叩き合わせた。


 それは正に「ネコ騙し」である。


 その瞬間、凄まじい衝撃波がハルカを襲い、後方に吹き飛ばされた。地面に着いても勢い止まらず、ゴロゴロと後転を繰り返していく。


「ハルカっ!」


 ケータとルーがハルカの元に駆け寄った。


 ハルカは「ううっ…」と声を漏らしただけで、直ぐには起き上がれそうにない。


「裏切り者のルー=リースに、罰を与えないとね」


 ミサは3人に目線を向けて「ニヤッ」と笑うと、両前脚で地面をタンと叩いた。


 すると、ひとりの女性をお姫さま抱っこで抱きかかえた人型の黒い影が、地面から湧き出てきた。


 その女性は赤い髪をポニーテールに結い上げ、パンツタイプの黒のレディーススーツを着ていた。意識がないのかグッタリしている。


「ファ…ファナさまっ!?」


 ルーが悲鳴のような声をあげた。


「それではこれから、処刑を始めまーす!」


 ミサはサディスティックにイヤらしく嗤った。それから右前脚を上に振り上げると、空中に漆黒の槍が現れる。


「や…やめてぇぇええーー!」


 ルーの泣き叫ぶ声を心地良く聞きながら、ミサは前脚を振り下ろした。


 漆黒の槍がファナの身体に突き刺さるその瞬間…


 彼女を包み込むように金色の竜巻が巻き起こり、槍と人影が霧のように消滅していく。


 そして金色の竜巻が弾けるように消え去ると、中からファナを抱えたひとりの女性が姿を現した。


 淡い金色の髪は三つ編みにまとめられ、背中にまで届いている。


 黄緑色のドレスは、まるでウエディングドレスのように肩から背中にかけて大胆に開いており、色白の綺麗な背中には、4枚の光り輝く透明な羽が生えていた。


「やっと、隙を見せましたね」


「お…お前、精霊女王っ!?」


 ミサが目を白黒させて驚いた。


「去りなさい、黒猫」


 精霊女王が左手を横に薙ぐと、金色の風が発生しミサの身体を包み込む。


「テメーッ、覚えてろ…」


 そしてそのまま、金色の風と共にミサの姿が消え去っていった。

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