第9話 お兄ちゃんは渡さないっ! 7
「……ナさまっ」
身体を揺すられる感覚に、ファナはゆっくりと目を開いた。
ルーに上半身を抱えられるように地面に座り込んでいたファナは、心配そうに覗き込んでいたルーの瞳と真っ直ぐに目が合った。
「ファナさまっ!」
ルーは顔を真っ赤にして、ファナの名を呼んだ。
「おや、ルーじゃないか…元気にしてたか?」
そう言って、右手で優しくルーの頭を撫でる。
「あれ程私のことは気にするなと言ったのに、どうせ無茶をしたのだろう?全く困った娘だよ、お前は」
それからルーの頭を自分の胸元に抱き寄せると、ギュッと両腕で抱きしめた。
「だって、だって…うわぁーーん」
ルーはファナの腕の中で、大粒の涙を零しながら大声で泣いた。
そんなルーの頭をヨシヨシと撫でながら、ファナはケータとハルカに顔を向ける。
「色々と迷惑をかけたんじゃないかい?」
「いえ、ずっとお義母さん想いのいい子でしたよ」
「…そうか」
優しく微笑むケータを見て、ファナは愛おしそうにルーに視線を戻した。
「私は怒ってるんだからっ!」
突然真横から声をかけられ、ケータは驚いたように顔を向ける。
精霊女王が頬を膨らませて立っていた。
「あんな無茶なコトして、ケータくんに何かあったら私…」
縁なし眼鏡の奥にある涙で潤んだ水色の瞳が、真っ直ぐにケータを見つめている。
その仕草、雰囲気にケータはハッとなった。
「まさか、サト…」
しかし精霊女王の右手の人差し指で口元を押さえられ、ケータの言葉はそこで遮られた。
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「それではお二人には、私の加護の強い土地に移り住んでもらいます」
精霊女王がルーとファナに向かって、優しく微笑みかけた。
「どーして私に、何の罰も与えないんですか?」
ルーが困惑の表情を見せる。
世界の破滅を目論むミサに加担していた自分を、ルー自身が赦せないようであった。
「私の祝福を受けた魂が、毎日泣きながら助けを求めていたのに、今まで何も出来ませんでした…むしろこんな事しか出来ない私を赦してください」
そう言って精霊女王は、ルーに向かって深々と頭を下げた。
「そんなっっ!?」
ルーは慌てて、首を何度も横に振った。しかし精霊女王は頑として頭を上げようとしない。
「ルー」
そのときファナが、優しく、そして力強い瞳でルーを見つめた。
「お前が自分を赦さないと、この方も自分を赦す事が出来ないみたいだな…どーする?」
ルーはファナの言葉を噛みしめると、やがてゆっくりと精霊女王に向き直った。
「ご厚意、有り難くお受けします」
「ありがとう」
やっと頭を上げた精霊女王は、ルーに向かって優しくニッコリ微笑んだ。
「ルリちゃんっっ」
そのときハルカが声を張り上げた。
「…ニージマハルカ」
ルーはゆっくりと声の主に顔を向ける。
「あ、よ…良かったね。やっとお義母さんと一緒に暮らせるんだねっ」
「…うん」
続けてハルカは何かを言おうと口を開いたが、次の言葉が出てこなかった。
「ハルカちゃん、ごめんね。敵に気付かれる前に二人を送り届けたいの」
「え…もう?」
精霊女王の言葉に、ハルカは焦ったような声を出した。それから再び、ルーに向き直る。
「ルリちゃん、あの…」
「ニージマハルカっ!」
モジモジするハルカに向けて、ルーは精一杯の笑顔を見せた。
「私たちは友達ですよ、必ずまた会いに来ます!」
「う…うん、絶対だよっ!」
ハルカもやっと笑顔を見せる。
「じゃ、またね、ルリちゃんっ!」
「はい、また今度っ!」
そのとき金色の風が3人の姿を包み込み、風と共に消え去った。
同時に隔離結界が解除され、景色が色を取り戻す。
「元気でね、ルリちゃん。絶対ゼッタイまた会おうねっ!」
ハルカは薄暗くなった夕焼け空を、いつまでもいつまでも見上げていた。
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