第7話 お兄ちゃんは渡さないっ! 5
ルーは天を仰ぎ見ると、両手を頭上に掲げる。それからチューリップの花の形のように、両手で器を作った。
するとその手の中に風の球体が生まれ、グルグルと渦巻き始めた。
「ルリちゃんヤメテ、お願いっっ」
「アナタを、倒す力は…もう残っていませんが、アナタを絶望…させるコトは、出来そー…ですね」
言いながらルーは両手の間隔を徐々に広げていく。それに付随するように、風の球体も大きくなっていった。
「これが弾けたとき、アナタの大好きな…お兄ちゃんは、一体どーなるの…でしょうね?」
「ヤメテーーぇえ!!」
ハルカは激情の力で立ち上がると、魔法杖を右肩越しに釣竿のように振り上げた。
「マジカル…ハンマーっ!」
ハルカの魔法に青水晶が反応すると、その先端に白銀の金槌が発現する。その側面には、金色の文字で「1t」と刻まれていた。
ハルカはそのまま、流れるようにマジカルハンマーを振り下ろした。
その瞬間ひとつの人影が飛び込んでくると、ルーを連れ去り、抱き抱えたまま地面に倒れ込んだ。
マジカルハンマーは誰もいなくなった大地を粉砕し、役目を終えたように消滅していく。
ハルカはルーを連れ去った人影に目を向けたまま、呆然と呟いた。
「え、何でよ…お兄ちゃん」
ルーの肩を抱くように、ゆっくりと立ち上がったケータの姿がそこにあった。
「
「ルリちゃんは、ずっと優しかったよ」
ケータは、とても優しい瞳でハルカを真っ直ぐに見つめた。
「え…?」
「ボクは半分眠ってたけど、さらってきたボクに対して何度も何度も謝ってくれたんだ」
「そ…そんな訳、ないですっ!私は…っ!」
ルーはケータを振り払うように、両手でドンと突き飛ばす。
「ニージマハルカっ、私を…殺しなさい!さもないとケータさんが…死ぬことになりますよ!」
「その魔法だって嘘だっ!」
「ち…違いますっ!私は、本当に…!」
「あらら、どーやらココまでだねー」
そのとき何もない空間から、黒猫がヒョイと飛び出してきた。突然のことに、全員の視線がいっぺんに集まる。
「ミ……サ…!?」
ルーが血の気の失せた顔で目を見開いた。
「確かに負けたときのコトは、明確には決めてなかったなー」
ミサが愉しそうな瞳でルーを見つめる。
「賢いルーのこと、自分が死ねば価値の無くなった人質は解放されると考えたんだねー」
「くっ…」
ルーが口元に手の甲を当てながら表情を歪めた。
「孤児だった自分をココまで育ててくれた恩人だものね、生命と引き換えに助けるくらい訳ないかー」
そう言ってミサは、目を細めて舌舐めずりする。
「だけど心配しないでっ!優しい私は、ルーがひとりで寂しくないように、人質も殺して一緒に送ってあげるからっ!」
「そんなっ!?」
ミサの高らかな宣言に、ルーは絶望したように膝から崩れ落ちた。
「さあさあ勝つしかないよ、戦って戦って!」
「う……う…」
ミサの「ケラケラ」とした笑い声に、ルーの青い瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
それからフラフラと、ゆっくり立ち上がった。
「ルリ…ちゃん、イヤだ…戦えない」
ハルカは何度も首を横に振る。
「ルリちゃんっ、ハルカはキミにとって何だ!?」
「……え?」
そのとき響いたケータの声に、ルーはゆっくりと顔を向けた。
「ハルカはキミにとって何だ?」
ケータはルーの瞳を真っ直ぐに見つめ、同じ質問を繰り返す。
ルーは潤んでボヤける視界で、再びハルカの方にゆっくりと向き直った。
「友達ぃー。助けてよー、ニージマハルカー」
その瞬間、ハルカの魔力が白銀の炎のように全身から噴き出した。
「これ以上、ルリちゃんをイジメるなぁあ!!」
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