第6話 お兄ちゃんは渡さないっ! 4

「スゴいっ、スゴいです、ニージマハルカっ!これなら私の生命に届くかもしれませんっ!」


 ルーが歓喜の声で叫んだ。


 ハルカのマジカルハンマーは、まるで推進剤を噴出するかのように、魔力の粒子を勢いよく後方に噴き出している。


 それに伴い、ルーの風の大鷲がじりじりと押し戻され始めた。


「だけど、まだ足りません。もっと、もっとくださいっ!」


 ルーは狂乱したかのように笑うと、突き出した右拳を捻じるようにひねり込んだ。


 その途端、風の大鷲が翼をたたみドリルのように回転し始める。その凄まじい回転力に、2本の白い螺旋の軌跡が大鷲の後方に伸びていった。


「く…うっ…」


 再びマジカルハンマーが押し戻され始め、ハルカは絶望と苦痛に顔を歪めた。


「どーしました?まさかコレが全力なんですか?」


 ルーが挑発とも取れる顔で笑う。


「でしたらサッサと勝負をつけて、ケータさんには私のになってもらいましょう」


「な……な…」


 ハルカは目を見開いて口をパクパクさせた。


「さしずめ『ケータお兄ちゃん』…ですね」


「ダ……ダメぇぇえええーー!」


 ハルカは吠えた。気迫が肉体の限界を凌駕する。


「お兄ちゃんは…渡さないっっ!」


『ハルカっ、これ以上はっ!?』


 一瞬で全てを悟ったベルの声が、ハルカに向けて制止をかけた。


「よ…四ツ葉ぁああーー!!」


 しかし、そんなベルの声すらかき消すように、ハルカの口から覚悟の声が発せられた。


 魔法杖の先端にある青水晶が閃光を発すると、とうとう4枚目の輝く葉っぱがパッと開く。


 同時にマジカルハンマーが、まるでビッグバンのように白銀に光り輝き、金色の光が「1000t」から「メガトン級」へと文字を上書きしていった。


 ハルカの全身が「ドクン」と脈打つ。


 次の瞬間、身体を引き裂くような衝撃が、ハルカの全身を駆け巡った。


「お兄ちゃんを助けるんだあぁぁあああっっ!!」


 ハルカはもはや、ケータへの気持ちだけでマジカルハンマーを握っていた。


 魔力粒子の噴出は、まるでロケットエンジンであるかのように爆発的に噴射する。


 驚異的な推進力を得たマジカルハンマーは、風の大鷲を一瞬でかき消した。


 その瞬間を見届けたルーは、それを受け入れたかのようにゆっくりと目を閉じる。


 その直後、マジカルハンマーは大地を粉砕し、ルーを巻き込み大爆発を起こした。


   ~~~


「はあ、はあ、はあ」


 もうもうと舞い上がる爆煙の前で、ハルカは大きく肩で息をしながら何とか立っていた。


 しかし次の瞬間、ビクンと身体が痙攣すると全身に激痛が駆け巡った。


「あ…あぁぁああーーーっ!!」


 ハルカの絶叫が、辺り一面に響き渡る。


 通常状態に戻った魔法杖を杖代わりに身体を支えるが、結局堪えきれずに両膝をつき、そのままペタンとへたり込んだ。


『ハルカっ、大丈夫っ?意識はあるっ!?』


「ハハ、何とか…生きてる」


 ベルの心配する声に、ハルカはへたり込んだまま顔を上げて微笑んだ。


 しかしその直後、ハルカの真下から竜巻の塔が天に伸び上がった。


「え、うわっ!?…アダっ」


 竜巻の威力でハルカの身体が舞い上がり、背中から地面に打ち付けられる。


 爆煙が晴れたその場所に、ルーが満身創痍で立っていた。


「どー…して最後、手を緩めた…の、ですか?」


 ハルカは何とか上半身を起こすと、フラつき今にも倒れそうなルーに悲しい表情を見せた。


「やっぱり私、ルリちゃんとは…戦いたくない」


「甘い…コトを」


 ルーは呆れたような声で、哀しそうに笑う。


「これから、ケータさんの…心臓に仕掛けた、遠隔魔法を発動…させます。敵に情けを…かけた事を、後悔しながら…生きてください」


「え!?」


 ルーのその言葉に、ハルカは顔面蒼白になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る