織姫川百夜2
やがて何か考えていた勢三郎が、おもむろに懐から取り出した
「これを」
「なんでございます?」
「これを穂乃殿に持っていて欲しいのだ」
穂乃がその布包を受け取ると、勢三郎は語り出した。
「この間の
穂乃がそれを開くと布包の中には小さな観音像が入っていた。粗削りだが
「それは……。それでは一緒には連れていけぬ、と言うことでございますか?」
穂乃の反応は予想がついていた。
その力強い目には一緒に行きたいという
それは
「穂乃殿、そなたを危険にさらしたくないのだ。私の気持ちを察してくれぬか」
勢三郎は立ち止まって穂乃を見つめた。
「ですが、勢三郎様…………」
二人は目と目で言葉を交わしている。
互いに寄り添って見つめあう二人に「うーーむ、しばらく待つしかあるまいな」と造六は頭を
「うわあああーーーーーーっ! 誰かっ!」
そんな二人の世界を引き裂いたのは、誰かの突然の悲鳴であった。
「どうした?」
造六が悲鳴の上がった方角を見た。
「だ、誰か、助けて!」
川岸の暗い林の奥からその声は聞こえた。
「勢…」
勢三郎殿と造六が言う前に、その目の前を勢三郎が
林の中に雪に尻もちをついた少年がいた。
小枝を背負っているところから見ると
勢三郎は刀の
少年の頭の周りにいくつもの青白い光がゆらゆらと漂っている。
「頭を低くしろ!」
勢三郎の声に少年は反射的に屈み込んだ。
その頭上を勢三郎が身をよじりながら跳躍し、同時にその刃が横なぎに弧を描き、光を断つ。
「逃がさぬ!」
白い雪煙をまき上げ、鮮やかに着地した勢三郎が、奥に逃げた光に向かって
「こっちは任せろ!」
反対側に飛んだ光の玉に向かって、造六は胸元で印を結んでいた指を立て、何かを放つかのように腕を振るった。
修験の術なのであろう。造六の指先から飛んだ紙の鳥のようなものが、真っすぐその光を貫いた。
「!」
驚いて目を見張る穂乃の前で青い光が四散して消えた。
一方、林の奥に逃げた光は、樹木の間を右に左に器用によけながらさらに奥へと逃げていく。
「人魂とはこの時期にしては珍しい!」
追いかける勢三郎は刀を下段に構え、跳躍と同時に下から上へ、ついに光の玉を真っ二つに切り裂いた。
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