黒森雪景3
白狒狒は勢三郎が落ちていった谷をしばらく見下ろしていたが勢三郎が動く気配はない。白い雪に覆われもはや何も見えない。
「あの程度で死ぬ退治屋ではあるまいがな……」
とどめを刺しに行くべきだが、それよりも気になる存在がそうさせなかった。
美しい女だ。その女は勝ち気な目で化物をにらんでいる。その美貌に白狒狒は目を細めた。
「ほう、これは雪姫ではないか? またずいぶん力を失っておる、まるで人ではないか?」
くっくっくっ、と白狒狒は口に手を当て笑った。
向こうから自ら我が縄張りに踏み込んでくるとは……。
これまで幾たびも婚姻話を持ち掛けたが、その度にけんもほろろな扱いをしてきた美女である。それがこんなに簡単に手に入ったのである。
雪姫……この世とあの世をつなぐ四季姫の一人であり、それを手に入れた者は強い力を得るという。化生の身に落ちたとは言え神の眷属、魔物にとってはまさに高貴な高嶺の花であった。
それがどうだ。今、この女からは自分を拒むだけの力が感じられない。わずかな残滓がその体内の奥深くに眠っているようだが封印された力など脅威では無い。力づくで妻にしてしまうには絶好の機会であろう。
しかも時期はまさに繁殖期、今年はわざわざ村から娘をさらってくる必要はなさそうだ。ただの人の子と違い、雪姫であれば間違いなく子を宿せるだろう。
白狒狒は口を歪め、べろりと舌舐めづりをした。
「良くやった、造六、みな眠るが良い」
そう言って手を差し出すと、造六と穂乃は急激な眠気に襲われた。造六はその場に崩れ落ち、穂乃は白狒狒の腕の中に収まった。その柔らかな肉体と豊満な胸の匂いが白狒狒の頬袋を赤く染めた。
ーーーー山深い谷の洞穴に白狒狒は住んでいた。
洞窟の壁は所々方形に
祭壇の暗い影には無数の人骨が散らばっていた。
白獣は穂乃を上から下まで舐めるように見回し牙を剥いて笑うと、はだけた太ももを邪に撫でまわし、溢れ出る涎を拭った。
雪姫の体に男を跳ね返すような結界はない。素晴らしい上玉だ。これならば丈夫な子を身籠ってくれるだろう。
「めでたい、めでたいのう。ついに雪姫と
白狒狒は洞口に姿を見せると、鈍く唇を震わせるような音を立てた。
その低い震える音は深い山々の谷を伝わってどこまでも広がり、やがてそれに応える音が次々と返ってきた。
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