2-2

 留置場で過ごす夜は静かだった。

 不安な気持ちにさせるものは誰もいない。

 ひとりぼっちだ。とうとうひとりぼっちになったのだ。


 自分にかけられた嫌疑はなんだっただろうか。

 罪名を読み上げていたようだが、気が動転して頭の中にはなにも入ってこなかった。

「わたしにはなにもわからない」と言い続けても、取り調べをしていた警察官は少しも納得していない様子だった。

「見てたんでしょ」

「仕事に行ってたので」

「知らないわけないよね」

「家の留守を任せてましたから、いうことを聞かないといわれたら仕方ない部分もあるんです――」


 堂々巡りになりつつあって、いい加減うんざりとしていた。

 明日もまた取り調べだという。

 ここ数日の出来事に疲れ果てていたが、やはり寝付けない。


 寝返りを打つと見知らぬ男が格子の外に立っていて、悲鳴を上げそうになった。

 制服を着ていない。警察官でなければ弁護士か。こんな時間に、しかもこんな場所で面会をするものだろうか。


 早苗は布団から這い出てその場で正座した。

「わたしに、なにか?」

 そう聞くと男は頭に乗せていた帽子をとり、紳士ぶって胸に当てた。

「この世に未練を残すことなく成仏するため、最後に伝えたい人に気持ちをお届けする、言伝人です」

「ええ?」

 初めて聞く言葉に早苗は問い返した。

「それは弁護人かなにかの意味でしょうか」

「いいえ。言伝人です」


 黙秘権や弁護士を付ける権利については聞かされていたが、言伝人なる制度についてはなにも説明を受けていなかった。


「成仏って……あの、やっぱり、わたしは死刑になるってことですか」

「さぁ、それはわたくしの管轄ではありませんから」

「じゃあ、どういう……」

「あなたに、娘さんから預かった言葉を届けに参りました」

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