学園☆ハーレム
目が覚めたら、学校にいた。
夢の中だろうかとも思ったが、見た事のない教室だった。
「ここはどこだ?」
ぼんやりと考えていると、突然気の強そうな女の子が走り込んできた!
とんでもない美少女である。およそ俺の人生の中では関わり合いのないような、クラスの中にいたら間違いなく注目の的になっているような美少女である。それが制服を着て、俺を見つけるなり鼻息粗く怒鳴りつけてきた。
「ちょっとあんた! 何でまだここにいるのよ!?」
見知らぬ女の子である。何故怒られているのか全く分からない。
「え、え?」
「え?じゃないわよ! もー! せっかく他の奴らを出し抜いて、あんたと二人きり……うるさいわね! 早く来なさい!」
一人で赤くなったり青くなったりである。俺にはさっぱり状況が分からない。
だが女の子は俺の手を引き走り出す。あまりの力強さに、逆らう事もできず俺も走る。
「待ちなさーい!」
「そいつには私が用があるのよ!」
「……任務」
「ふぇぇ、せんぱーい」
走る程に個性的な女の子達が増えていく! いかにもマジメな委員長タイプ、長身で豊満な体の女の子! ツインテールが眩しい元気なぺったん子! 忍者っぽい格好をして天井を走ってくる不思議系女の子! 見るからにドジッ子後輩タイプのメガネっ子はやや後方を走って追いかけてくる。
もちろん全員見知らぬ子! 一体どうなっているんだ!?
「もー、だから言ったじゃない! ホントにあんたは鈍くさいんだから!」
また怒られた。とにかく引っ張られるがままに、俺は走り続けた。
「くっ! 行き止まり!?」
俺たちが辿り着いたのは廊下のどん詰まりだった。後ろからは他の女の子達が迫る!
「追いつきました……」
「もう逃がさないんだから!」
「早く終わらせて里へ帰りたい」
「ふぇぇ、せんぱーい」
どうやら全員が俺に用事があるらしい。
俺は未だかつて、女の子にこんな風に追いかけられた事はない。一体俺は何をしでかしてしまったんだろうか。
恐々としていると、女の子達は勝手に言い合いを始めた。
「抜け駆けなんて、許さないんだから!」
「う、うるさいわね!」
「そうよ! みんなでちゃんとルール決めたじゃない!」
「目標は公平にシェア……」
「先輩はみんなのものぉ……」
察するに、決して俺に対して何か悪い事があるとかじゃないようだ。まずはホッとした。
ぎゃあぎゃあとしている内容を聞いていると、どうも全員が俺に気があるようで、誰が告白するだのなんだのと、どんどんあられもない事を言いだしている。
俺は騒々しいこの空気の中、一人冷静にこの事態の把握に努めた。
一体何なんだろう。この状況も分からない事だらけだが、俺に起きているここまでの一連の出来事がなんなのかを理解出来なかった。
色んな世界を巡らせられている。そもそも俺はあのゴミゴミとした部屋で、セックスをしないと出られないだとかでパニックを起こしていた。……全く脈絡が無さ過ぎて何を言っているか意味不明である。
しかし、もしかしたら。
たった一つ、仮定がある。それは、あらゆる世界を行き来しながら、セックスをしたらゴール! 無事俺はこの謎の空間から出られる!のではないか?である。
誰の意志か分からない。だが、そうとしか思えない程女の子にまみれている。そして無駄に起こるラッキースケベ。
そうだ。神が言っている。ここでセックスをせよと。
「なぁ」
「何!? 今忙しいんだけど!?」
「誰か、セックスしよう」
ぴし、と空気が固まるのを感じた。あれ?
空気が読めないと定評のある俺でも分かる。この空気は相当やばい。
「は? 今なんつった?」
俺を連れ回していた美少女は、とてもではないが皆様にお伝え出来ないような顔で俺を睨んでいる。
「い、いや、あの」
思わず言い淀んでいると、女の子達は皆一様に溜息を吐き始める。
「見損ないました」
「サイテー」
「任務の価値無し」
「く、クズですぅ」
なんだ、なんなんだ! この冷め方は!?
潮が引いていくように、すーっと皆離れていく。あれほどの熱量はどこへやら、もはや空気すら冷たい。
「ちょちょ、ちょっと待ってくれよ! みんな俺の事が好きなんじゃないのか!?」
最初の美少女の腕を掴んで、その真意を確かめようとする。が、美少女はこちらを見もせず振り解き、大きな溜息を吐いてから面倒くさそうに答えた。
「あのさ、あんな事言う奴の事、好きになる訳ないじゃん? バカなの? 死ねよ」
初対面の頃が懐かしい。俺は引き留める事もできず、立ち去る後ろ姿を呆然と見送った。
あぁ、そうだ。俺はいつだってこんなだった。
空気が読めない。人との距離感が分からない。踏み込みすぎたり、近寄らなすぎたり。人の言葉を良く理解出来なかったり、必要以上に深読みしたり。
俺は、こうして社会からドロップアウトしたんだ。
立っているのも辛い。全身の力が抜けていく。膝から崩れ落ち、その場にうずくまる。
いやだ。もう生きているのが。死んでしまいたい。
生まれ変わったら少しは良い事あるのかな。俺のこの歪んだ人格がどうにかならないとどうにもならないのかな。
自虐的に笑いながら、自嘲的に泣きながら、俺は一人、首を締め上げた。
スマホの画面が輝きを放ち、そして俺はそこに吸い込まれた。
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