魔法使いとの遭遇

 次に目が覚めると、森の真ん中であった。

「あぁ、宇宙空間よりは落ち着く……」

 自分がここにいる疑問よりも、宇宙空間ではない事に喜びを感じてしまう。何より先程と違って、生命の危機がなさそうである。すぐ手元には、何故か件のスマホが落ちていた。俺を吸い込んだはずなのに、何故ここに?

「とはいえここはどこなんだ……?」

 辺りを見回していると、モンスターと目があった。狼を3m程に大きくしたようであり、立派な牙と角を備え、その眼光は鋭い。

「……」

「……」

 お互い見つめ合いながら、しばしの沈黙。

「わーー!」

「ガオーー!!」

 お互い思い出したように動き出す!

 モンスター!? どこここ何で!?

「伏せなさい!」

 凛々しい声が響き渡る。声の主を探すより先に、俺は地に伏せた!

「グア!?」

 人の言葉を解さない哀れな獣は対応する事ができず、立ちつくすのみである。

「はぁぁぁあ! 炎爆竜破断フレアブレイク!!」

 不可視のエネルギーの奔流がモンスターを襲う! そして大爆発を起こす!

 ドーン!

「うわぁぁあ!」

 伏せていたから直撃を避けられたものの、目の前での大爆発である。俺はあらぬ方向へと吹き飛ばされる。

「きゃっ!?」

 女の子の短い悲鳴。衝突。そして手には柔らかな感触。

「う、う~ん……」

「ちょ、ちょっとどきなさい!」

 女の子の慌てふためく声。俺は目を白黒とさせていたが、起きあがりながら事態の把握に勤めた。

 爆風で吹き飛んだ俺は、どうやら助けてくれた女の子の方へ飛ばされ、そのまま覆い被さるように倒れ込んだらしい。そして俺の右手は女の子の胸を鷲掴みしていたのである。

 女の子は顔を真っ赤にしながら抗議している。だが、俺にとってはそれどころではない。

 女の子の胸なんて初めて触った。というか、揉んだ。柔らかくて、楽しい気持ちになって、ドキドキして、柔らかい。思考回路は混線状態である。

「このっいい加減に……!」

 女の子は遂に俺の体を蹴り上げ、引きはがす。俺は数m吹っ飛ばされて背中から叩き落ちる。

「ガハッ!」

「とんだ変態だわ……助けるんじゃなかった……」

 溜息混じりの女の子。

 断っておくが、俺は断じてそんなすけべぇな男ではない。女の子が側にいたとしても、両手を挙げて触らないようにする紳士である。隣りに座られたらすぐ好きになってしまう程の純情である。二次元相手にしか欲情した事がない男の中の男である。

 そんな俺の頭の中を今埋め尽くしているのは、セックスだけである。命の危機にあうと、男ならばこうなってしまうらしいと噂で聞いた事がある。男ならば仕方ない。仕方ないんだ。

 幸いここには人目はない。女の子は魔法は超強いが、非力だ。

 やってやれなくはないのでは……?

 そう思いながら女の子の方を見遣ると、露骨に警戒された。

「変な事考えてないでしょうね……?」

 身構える女の子。僕はお構いなしに、掴みかかる事にした。

「っ! 氷魔槍アイスランス!」

 女の子は容赦なく魔法をぶっ放してきた! 虚空に突如、氷の槍が幾つも生まれ、俺めがけて飛んでくる!

 あぁ、死ぬな。スローモーションで見えるもん。あれが刺さってお終い。最期におっぱい触れて良かったなぁ。でも死にたくないなぁ。

 そう思っていると、スマホが再び光り始め、僕の体は槍よりも早く画面に吸い込まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る