サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました18
「ピカ次君! 君! そんなキャラだっけか!? 僕はてっきりリアリストだと思っていたのだけれどね!?」
「俺は二十年身動きが取れなかった人間だぞ。個人の自由を尊重しないはずがないだろう。生きているのであれば、好きなようにするべきだ」
そうだった。こいつ、自分の欲望のためなら殺人さえ厭わない狂キャラだった。あまりに普通に話していたから忘れちまってたよまったく。しゃあない。自分で軌道修正するか。
「とはいえ大変だろう。確かにトップを狙えといったのは俺だが、簡単に目指せるものでもあるまい。なにか、ステップアップに向けての具体的な手段でもあるのか?」
「ふっふ~聞いちゃいます~? そこを聞いちゃいますか~ピカ太さ~ん」
「……?」
なんだ。妙にテンション高いな……
「実は今までやりたかった事があったんだけど~一歩踏み出せなくてずっと閉まっていたアイディアがあるんだよね~」
「どんな?」
「それはね~……路上ファッションショー!」
「路上……ファッションショー……?」
「そう! 路上アーティストみたいに~! ストリートの一画で代わる代わる服を着て歩くの~! ど~う!? おもしろそうじゃな~い!? 企業企画としてはありがちなんだけどね~!」
「……大丈夫それ? 集客見込める? 凄い失礼な事言うけど、人集まる気しないんだけど」
「だからあんまりやる気起きなかったのよ~。でも~なんでもやってみないと分からないし~今の時代~何が注目されるか分からないじゃな~い?」
「そうかもしれんが……」
「それにね~? やらない理由を探すより~やってみようって思える気持ちを大事にしたいな~って。私~ネガティブよりポジティブな方が好きだから~」
「……」
どうしよ。全然諦める気配がない。それどころか俄然やる気が崩れない。それだけだったらいいんだけど、路上ファッションショー? いや無理だって絶対コケるって。だって見てても面白くなさそうなんだもん。人気デザイナーが絡んでるわけでもないし、いっちゃ悪いが九雲スイもYouTube動画再生数千程度の女。成功するビジョンがまるで見えないんだわ。この企画段階での失敗エンターテインメントを俺の一言で決意させてしまったの? いやぁ! やめてぇ! 責任感じるのもあるけどまるで駄目で落胆しているところを想像すると胸にくるものがあるぅ! アニメとかドラマでよくある“だが現実は厳しかった”展開―! それが俺の近くで! 俺の責任によって起ころうとしているのだー! 耐えられんぞこんなのー! 畜生! せめて! せめてマーケティングできたら! 金を使ってブランディングできたらー!
……待てよ?
「なぁ九雲スイ」
「クリスタルだよ~ピカ太さ~ん」
「俺は今、九雲スイに話しかけている」
「……なぁ~に?」
「お前、その路上ファッションショーとやらにスポンサーが付くのは嫌か?」
「どういう事~?」
「企業が金を使ってバックアップをするのは気に食わんのかと聞いている」
「え~? それはまぁ~やってもらえるのであればすっごくありがたいけど~私なんか無名もいいところだし無理だと思うよ~?」
「そうだな。確かにお前は無名だ。だが、名前なんざすぐに覚えられる。金を使って覚えてもらえばいいんだ」
「そんなお金私ないよ~?」
「うちの会社が用意する」
「……え?」
「前の飲み会でも言ったが俺の勤め先は小さいながらも広告業を行っている。ほぼほぼ下請け企業だから自社ブランド力なんざ皆無で展開できる規模なんて小さなもんだが、個人でやるよりはマシだろう。更にいえば、以前飲み会に参加していた伊佐さんと店長にも協力を要請する。伊佐さんはイベント業やってるから言わずもがな。店長はあれで商店街の信頼が厚くそこそこの発言力があるんだ。実施場所の用意やポスターの設置くらいは対応してくれると思う」
「え、え、ちょっと、話が急に大きくなりすぎてついていけないんだけど」
「なに言ってんだ。トップ取ってビックになるんだろ? この興業が成功すればうちから大手に切り替えたっていい。そういう契約にしよう」
「……本気なの?」
「本気だ九雲スイ。だからお前も本気になれ」
「……」
「……」
「……信じて、いいんだね?」
「信じろ。助けになってやる。資料は後程課長を通して送る。メイドとの連絡先交換はルール違反らしいからな」
「……ピカ太さん」
「なんだ」
「……ありがとう……ありがとうございます!」
「感謝は成功してからにしてくれ。それより、ビールがなくなってしまった。注いでくれないか」
「はい……はい! 三度注ぎでいいですか!?」
「あぁ」
「かしこまりました! ありがとうございます!」
……
……ふふ。上手くいったぞ?
会社の金を使って九雲スイをブランディングすれば俺の責任は会社へと移行する。そして俺は立場を利用し奴の協力者となり罪悪感を抱く必要がなくなったというわけだ。案件については問題ないだろう。俺の発案なら上長も反対はしないし、最悪課長の力を借りればいい。おまけにこの女は不破付さんと面識がある。あの女好きの事だ、仕事を押し付けても文句は言わんだろう。それどころか、自ら率先して動いてくれるやもしれん。
あれ? あれあれあれ? なんだなんだ? なんか随分身軽になったなぁ! 俺の荷物が全部他のところへ分散しちまったよぉ!? いやぁ頑張ってきてよかった! これでもし売れたら全部不破付さんの手柄にして一気に昇進していただいき俺は気軽に平社員やってよ! うぉぉぉぉぉぉ! 楽しみになってきたぞこの案件~~~~~~~~!
「おい」
「あ? なんだいピカ次君」
「お前、言ったからには責任を取れよ?」
「責任?」」
「そうだ。お前が汗を流し、先頭で動け」
「え、いや、それは……」
「誰かに責任を押し付けて自分は知らん顔するなんて真似は絶対にするなよ?」
「……」
「いいな……!?」
「……はい」
これ、嫌って言ったら殺されるやつっぽいな。
……どうしたもんかな!
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