サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました17

「は~い。三度注ぎお待ち~」


「どうも」



 うーん美味い。注ぎ方一つでこんなに変わるもんかねぇ。びっくりだよ。今度ちゃんとしたビアホールに行って飲み比べてみよう。



「ピカ太さ~ん。私ね~?」


「あ? なんだ?」


「最近ね~モデル廃業しようかなって思ってたんだ~?」


「え? なに、突然」


「いいから聞いてよ~」


「あ、あぁ……」


「さっきも言ったけど~モデルって割と消耗品的な感じで扱われるんだ~最近は人も増えてきて~私のやってる背の小さい人向けのブランドなんかでも昔と比較にならないくらい人数いるんだって~」


「発信できるメディアも増えてるしな」


「そうそう~まぁモデルに限った話じゃないんだけどね~最近だと声優さんとかもよく聞くし~?」


「声優に関しては歌と踊りができて当然で+αが求められる時代よ。市場ニーズに合致してはいるが消費ばかりを優先して芸を蔑ろにしている昨今の業界はどうかと思うね俺は。まぁ善し悪しあるし必ずしも昔の方がいいというわけでもないんだが」


「モデルもそんな感じでね~? 時代の流れと共にいっぱい武器を持たなきゃいけなくなってるのよ~たとえばトークができるとか~動画配信で再生数稼げるとか~」


「あぁ。この情報化社会の中じゃランウェイを歩いたり写真撮られるだけじゃ務まらんだろうな」


「そうそう~昔からテレビありきな売り方してるところもあったけど~今よりはやりやすかったのよ~セクハラパワハラは当たり前にあったけどね~なんだかんだで使ってはくれたし~? まぁ前提として仕事ができなきゃいけないんだけど~それでもある程度は生き残れてたんだ~。でも~今はもう本当に生存競争が厳しくって~そこそこの実力あっても駄目ならはいさようなら~って風なのよ~」


「分母が増えたらそうなうるかもな。おかしいよな。少子高齢化なのに人があぶれてるって」


「多様化ってやつかな~? ともかく~私も生き残りをかけて色々やってはいたんだけど~どれも半端でさ~? 動画配信も試してみたけど再生数千とかで頭打ちで~全然仕事に繋がらないのよ~」


「千いってりゃ凄くね?。潜在的な視聴者はいる気がするから企画と宣伝次第で飛躍すると思うが」


「あ~それ知り合いにも言われた~。でもね~なんか気乗りしないというか~面倒というか~正直にいうとやりたくないのよね~」


「なんで? せっかく名前を売るチャンスじゃん」


「だって~私がやりたい事って~可愛い服着て写真撮ってもらって~それでショーとかにも出てね~? 私と同じくらいの身長の人に~こんなに可愛くなれるんだよ~って伝える仕事なのよ~動画の人じゃないの」


「YouTubeでもできるだろそれは」


「私も最初そう思ったんだけど、駄目なのよね。近いの、観てる人との距離が」


「どういう意味?」


「これは私の持論というか理想なんだけど~。モデルってね~? あんまり近すぎてもよくないのよ~。あくまで魅せる側の人間だからね~? 観る側の人間とは明確に差がないといけないの~」


「迎合はよくないと」


「そうそう~矜持がないみたいな~? だからね~? ユーチューブで共感性の高いコンテンツを作ったりとか~誰でも気軽にコメントを掻き込める環境で表現するとかって~私は嫌なんだ~」


「うぅん。俺にはちょっと理解できない感性だな。やれる事は全部やった方がいいと思うが」


「普通はそうだと思う~でも私は馬鹿だからね~? どうしてもなりたい自分を優先させちゃうのよ~。こんなところでバイトしてるくせにって自分でも思うんだけど~モデルとしての生き様とか~心情は曲げたくないな~って~」


「……」


「でも~社会はそうじゃないじゃな~い? 使いやすい人が売れるのは当たり前だし~売れてる人が使われるのが当然で~。だから、もう駄目かなって、ちょっと思ってたの」


「まぁ、他に楽な生き方はごまんとあるだろうからな」


「そうね~。でも~ピカ太さんの一言で~改めて頑張りたいっていうか~やりたい事の再確認ができたっていうか~もうちょっと頑張りたいな~って思って~」


「? なんか言ったか俺?」


「トップ目指そうぜって」


「あぁ……」





 どうやらはからずも一人の人間の夢を再認識させてしまったららしい。やったね!


 ……実際どうなんだろう。見果てぬ夢を追い求めるより現実に帰還しそこそこに働いた方が人生充実するし幸せなんじゃないだろうか。一般企業に勤めれば安定した生活が望めるだろうし。いや今の時代一般企業へ正規雇用で務められるかどうか微妙なところではあるが、非正規であってもそれなりの待遇で働けるところもある。少なくとも不安定な芸能関係で生きていくよりは余程生きやすいだろう。その道を、俺が軽々に発した言葉で蹴ってしまったというのだから責任を感じる。もしこのままモデル続けて破滅なんて事になったら俺のせいになっちゃうんじゃないかこれ? どうしよ、やだよそんなの目覚めが悪い。


よし。ここはピカ次君に協力してもらって普通の生活に戻るよう誘導しよう。



「なるほどなるほど。ところでピカ次君はどう思う。」




頼むぞ元もう一人の俺よ。空気読んでいい感じに諦めるような言葉を吐いてくれよな!




「いいじゃないか。人生に目標があるってのは」




 ……え?




「やっぱり~!? そうよね~! やっぱりやりたい事をやりたいよね~!」




 ちょ、ちょっとピカ次君!? 君マジかい!? 夢を応援しちゃう感じ!? 困るなぁもう!

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