サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました19
そりゃね? やるといったらやりますよ俺は。でもなんか脅されると一気にモチベ下がっちゃうよね! 元からそんなある方でもないんだけども、それにしたって気に入らない。俺は他人から強要されるのとムカつくんだ。私強いられるの嫌い!
この感情はピカ次君のいう個人の自由の尊重に類するものだろう。そういう意味では同じ価値観を持っているのかもしれん。似た者同士だな。まぁ元々同一個体だったわけだから似てるもなにもないわけだが。でもよく考えたら個人の尊重とか自由意思とかって基本的にみんな尊ぶべきものだって認識だし尊重してくれって思うし当然の事だよな。社会じゃ蔑ろにされてるけど。あれ? でもピカ次君の奴、ピチウについてはずっと束縛的な感じだよな。これは矛盾ではないだろうか。本人自覚してんのかな。ちょっと突いてみよう。
「ピカ次君。君の言い分は分かったが、少しおかしな点がないかね」
「おかしな点だと?」
「そうとも。君が訴える自由の尊重は大変心に響くものだが、君自身から逆の言動が見られる。その辺りを説明していただきたいね」
「馬鹿な事を。俺がダブルスタンダードだというのか」
「言葉を選ばなければそうだと言おう。君は一部において、二枚舌ともいえる姑息な発言をしているのだ」
「心当たりがまるでないな」
「そうか。では聞かせよう。君は先ほど、“生きているのであれば、好きなようにするべきだ”と述べていたが、それは記憶にあるかな?」
「それがどうした。あとその口調やめろムカつく」
「では、この店に入る前。あるいは入った直後。ピチウに対してどのような意見を述べたかも覚えているだろうか?」
「……」
「どうやら思い出したようだな……そう! お前は個人の自由がどうのこうの言ってる癖にピチウに対してめっちゃ束縛しようとしているんだよ! この矛盾をどう説明するのか! 可能であれば聞かせていただきたいものだね!」
「ぐ……」
「どぉしたどぉしたぁ!? 答えられんかぁ!? お前の信条はそんなものかぁ!?」
「……それはそれ。これはこれだ」
「はぁ~~~~~~~~~~~~~!? 親かお前はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~!? 適当ぶっこいてんじゃねぇぞごらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うるさいぞ。そもそもお前がピチウについて語るのは烏滸がましい。散々無関心だったくせに今になって俺の批判のためだけにあいつの話題を持ち出すなど、二枚舌以上に姑息な行いだ」
「そこを突かれると返す言葉がないから無視しておく! ともかくとしてお前は言行不一致なのだから改めるべきではないかね!?」
「お前、友達いないだろ?」
「お互い様だ!」
「ちょっと! お兄ちゃん達! 何騒いでるのよ! 恥ずかしいからやめて!」
「お、ピチウ遅かったな」
「……」
「まったくもう。アルバイトの初出勤日に兄妹がくるなんて格好悪いったらないじゃない。それも二人も。いったいどうしたっていうのよ」
「別にお前を見に来たわけじゃねーよ。そこで寝てる馬鹿に連れてこられたんだよ」
「……」
「ふぅん。それはそれでちょっとショックというか失礼な言い方な気がするなぁ。私の衣裳見ても感想とかないの?」
「コンカフェの衣裳なんざ語るべくもないだろう。ましてやメイド喫茶。設定こそ変化球気味だが本質的には代わり映えしないクラシカルな装い。何を言ったところでありきたりな感想の域を出まい」
「ピカお兄ちゃんってそういうところあるよね。偏屈。退屈。屈折してるよ。そんなんじゃ彼女もできないんだからね」
「いらんそんなもの。俺はガンプラとサブスクがあればそれでいい」
「はぁ……いい大人の台詞とは思えないよ……情けない」
情けないとはなんだ情けないとは。実際情けないとは思うが。
「もうピカお兄ちゃんには期待しないよ……ピカ次お兄ちゃんはどう思う? 私のこの衣裳。可愛い?」
「……」
「ピカ次お兄ちゃん?」
「……いいんじゃないか?」
「本当!? ねぇ! どの辺! どの辺がいいと思う!?」
「……色合い」
「……」
「……」
「……」
……色合いはねぇだろ色合いは。
「あ、ピカ次さん、グラス空いてますね~何か飲む~?」
「あぁ。適当に頼む」
「ピカ次お兄ちゃん、お酒飲んでるの? 身体子供なのに」
「モデルは子供だが内臓や血管は強化してある。相撲取りやレスラーより酒に強い」
「そっかー。私も早くお酒飲みたいな」
「酒なんぞ飲まない方がいい。身体を壊すぞ」
「飲んでる人に言われたくないなぁ……それより、さっきは何でピカお兄ちゃんと言い合ってたの?」
「それは……」
「ピカ次君的にはお前がこの店で働く事に反対だそうだ」
「おい。伝えるなら正確に伝えろ。もしこの店で正規雇用を目指すのであれば反対すると言ったのだ」
「じゃあバイトは別にいいのか?」
「いいわけあるか。おいピチウ。辞めろこんなバイト」
情緒よ。お前大丈夫か? 精神安定剤とか飲んだ方がよくない?
「うぅん……よく分かんないけどぉ、しばらくお手伝いするだけでそんなに長くはいないから安心してよピカ次お兄ちゃん。それに、仕事だってお家を継がなきゃいけないわけだし」
「……」
そうだった。ピチウは家の跡取りだった。そりゃあ、メイド喫茶で働いてる場合じゃあないわな。
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