サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました10
ヒュウ怖い! むっちゃ殺意じゃん! 自分の片割れにこんな鋭い圧気を当てられるなどなんて因果だろう!? カルマが! 他生で蓄積したカルマが芽吹き実を結んでいる! 全て前世の悪行が原因。人に優しくして人徳ポイントを貯めなくては!
「ピカ次君。フードメニューを頼みたまえよ。なんでも食べてくれ。今日は俺の奢りだ」
優しさポイント加点! 人に衣食の世話をするのはかなり大きな徳だろう! おぉ! カルマが引かれていくのが分かるぞ!? こりゃ来世はきっと大富豪だな! 世界を相手に石油を売るぞ!? がはははは!
「いらん」
「そう言わずに! あ、そうだ! オムライス頼もうぜオムライス! それでケチャップでサウザーの絵を描いてもらおう! 俺好きなんだよねサウザー! 一緒に“萌えなどいらぬ”って言って泣きながら食べようぜ!」
「……お前を見ていると自分が正常に思えてくる」
「そうか! なによりだ!」
「……」
お前の人生は始まったばかりだ。俺を始め色々な人間を見て見識を広げ多角的な視線で物事を捉えられるような人間になってほしい。
「ところで九雲さん。今日はムー子の馬鹿と二人きりなの?」
「うぅん? あと一人入ってて~。もう少しで来る予定だよ~? あと~この店では私の名前クリスタルだからよろしくね~」
「あぁ、メイドネームがあるのか。ちなみにムー子はなんてーの?」
「ムー子ちゃんはぁ……なんだっけ。後で聞いてみるね~」
「あいつは馬鹿とか間抜けとかアホ面とか劣等チンパンジーとかでいいだろ」
「それ超面白いじゃ~ん。それなら~失敗ホモサピエンスって呼んでみるね~?
「はは、ウケる」
「誰が欠陥クソ人間モドキですか~~~~~~!? 親とか親戚ならいいですけど私の悪口は許しませんよ~~~~~~~~~~!?」
「あら~ムー子ちゃん。終わったの~? 準備~」
「えぇ! 終わらせましたよ! 仕込みにダスター準備にドリンク樽の入れ替えも全部ね! スイちゃんわざと面倒な仕事だけ残したでしょ!?」
「まぁね~。でも、遅く来る方が悪いし~仕方ないよね~? あと~お店ではクリスタルちゃんって呼んでね~?」
「そういえばそんな設定でしたね。すっかり忘れてました」
「忘れてたってお前、考えてないの?」
「私は多忙ですからね。スポット業務にいちいちフルコミットできませんよえぇ」
「ふぅん。じゃあユーバス咲でいいんじゃねぇの? 憧れてる他人って設定にしてさ。そうしたらVの方の宣伝にもなるだろ」
「分かってませんねピカ太さん。そういう宣伝の仕方は大きなリスクを伴うんですよ」
「そうなの?」
「そうですよ。例えば配信中に、“〇〇って店にユーバス様の名前を語るスタッフがおりましたぞ~! 超絶美人でしたがやはり拙僧はリアルバーチャルアイドルのユーバス殿が一番でございまする~南無~”なんてコメントは投下されたとするじゃないですか。で、まぁ半数は“それは良き情報~ユーバス殿の知名度も広がり天下はますます大乗となり衆生は涅槃へと誘われますな~”とか、“一度この目で入れておかねば~煩悩回帰~”みたいな、場に合わせた毒にも薬にもならない内容が続くと思います。ですが、踏み込んだ方がくると中々面倒な事態になりかねないんですよね」
「例えば?」
「例えば、“ユーバス殿の名を騙るとは不届き千万! 不肖このコンジロキンパラ大僧正! 討伐に出る! 伸びろ如意棒(意味深)”とか言ってリア凸かます危険人物が出るとも限りませんし、実際に確かめに来てリアルの私に課金するようになった結果ユーバス咲から鞍替えなんて事も起こり得ます」
「んな特殊な例ほぼないんじゃないか?」
「ピカ太さんはVに執着する人間を分かってない。いいですか? 私達はいわば近いけど遠い存在として親しまれているんですよ。手が届く距離なのに、すぐそこにいるのに、実際には光年の隔たりがあるんです。そんな関係でお金を出していただいているとですね、狂うファンの方も一部いらっしゃるんですよ。だから極力リアルな私自身でユーバス咲を利用した商売をしたくないですし、ユーバス咲でリアルを出したくないんです。この前グロ帝ちゃんとプラモデル作った話をネタにしましたが、まぁそのレベルまでですね」
「ふぅん。色々考えてるんだな」
「コンテンツとして成長し過ぎたところもありますのでシビアに考えないと……それに、あんまり下手なことするとゴス美課長にも怒られますし」
「それは避けたいな」
「はい……」
ゴス美マジで怖いからな。ムー子の場合パンチキックソーイズマインだから余計にだろう。見てて面白いから怒られてほしいけど。
「う~ん。よく分からないけど~。ムー子ちゃん、メイドネームないんだよね~?」
「はいそうです。まったくもってその通りです。源氏名がありません」
源氏名っていうな。
「じゃ、せっかくだしみんなで考えようよ~どうせ他にお客さんいないし~」
「いいですね! それはいいですね! 皆さん! 私に素敵な名前を考えてみてください! 見事採用されましたら特別にチェキ権あげますよ! どうですか!? 嬉しいでしょう!」
「商品に魅力がないから俺はパス」
「ちょっとピカ太さん! 駄目ですよそんな梯子の外し方は! もう逃げられません! 大人しく参加してください!」
「せめてドリンク無料券とか十分延長無料とかにしてくれ」
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