サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました11

「それは私の一存では決めかねますので確認してOKが出れば対応いたします」


「チェキ無料は個人の裁量で判断していいのか」


「写真なんてタダみたいなもんですからね。フィルムなんてなんとでもなりますし。なんならデータにしちゃえば完全にノーコスト! お客様のスマフォバッテリーと容量が少し減るくらいです!」


「こっちが損しかしねぇ」


「んなぁことぁないですよ! ムー子ちゃんの画像データが貴方のスマフォに入るんですよ!? 幸せしかないじゃないですか!」


「何かの間違いでお前の画像データが保存されたらその瞬間俺はクラウドを凍結して端末を買い替える」


「出た出たピカ太さんの悪い癖。すーぐそういう事言うんだから。いつもならかまってあげるんですが今日は駄目なんですからね!? なんてたって始まるんですから! ムー子ちゃんのメイドネーム決定戦が!」


「誰も望んでない催しだぞ。客商売なら需要を鑑みたイベントを開催してくれ」


「かまってあげないと言ったでしょうピカ太さん。文句は一旦無視してルールの方を説明したいと思います。え~それでは皆さん。私が最初に“いい名前ないかねぇ”と言いますので、そこへ続けて何か仰ってください。そうしたら私が“いい名前だね”と返しますので、更に一言お願いします。挙手制です。はい、クリスタルちゃん……“いい名前ないかねぇ”」


「防衛費なんてどうでしょうか~」


「いい名前だねぇ」


「そうでしょ~この名前にすると国民から税金を取れるんですよ~」


「おぉ~」




 おぉ~

 じゃねぇよ。シームレスに大喜利大会開いてんじゃねぇ。有名人の拡散投稿にぶら下がるリプライ群かってぇの。あの空気地獄だよな。見るに堪えない。




「はい。次ピカ太さん。“いい名前ないかねぇ”」


「手、挙げてないんだが」


「いい名前ないかねぇ」


「聞いてんのか」


「いい名前ないかねぇ」


「……」


「いい! 名前! ないかねぇ!」


「……冨樫義博」


「いい名前だねぇ」


「はい、ネームの完成度がずば抜けてます」


「なるほど! 漫画のネームと名前のnameをかけたわけですね! 中々面白いじゃないですか!」


「解説するな」


「はい! じゃあ次! ピカ次さん」


「……付き合いきれん」


「まぁまぁそう言わず~ちょっと付き合ってくださいよぉ~私達これまで全然話した事なかったじゃないですか~これを期にお互い仲良くなりましょうよ~」


「お前と仲良くなって俺に何のメリットがあるんだ」


「あらま! 友情関係を損得で測るなんてよくないですよピカ次さん! ピカ太さん! ちょっとなんか言ってやってくださいよ!」


「メリットがないんじゃない。デメリットしかないんだ」


「おぉっと!? まさかのフレンドファイア! 後方からアサルトライフルで狙撃された気分ですよピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁん! FPSなら確実にペナルティ! ルーム追い出し確定ですよ!」


「お前とフレンドになったつもりはない」


「んっん~辛辣~ピカ太さんったらどうしてそう冷たいのかしらねぇ。ピカ次さん。なんか言ってやって頂戴」


「どうでもいい」


「どうでもいい!? どうでもいいって事はないでしょう! このムー子ちゃんがいじめられてるんですよ!? 可愛そうだとは思いませんか!」


「知らん」


「んまー! こっちも冷たい! まるで真冬に触るプレステのコントローラーのような冷たさですよ! ちょっとくらい優しくしてくださいよ! 泣いちゃいますよ!」


「うるさい」


「うるさい!? う・る・さ・い!? ちょっとちょっとちょっと~~~~~~~! どこがうるさいっていうんですか~~~~~~~~~~~~~~~ムー子ちゃん美声には定評があるんですからね~~~~~~~~~~~~~~~!? ファンの皆様からは“あ~~~~~~~~~~~脳が溶けゆ~~~~~~~~~~”なんて言われてるんですから!」


「お前の脳が溶けているんだろ」


「当たり前に吐く暴言! ピカ太さんにそっくり! いや、ピカ太さんが似てるんですかね……どっちでもいいですよ! なんなんですかもう! 怒り心頭ですよ私は!」


「……」




 ムー子の奴、やけにピカ次にウザ絡みしているが、もしかしてタクシーの中で話した内容を守っているのか? うぅん、いやまぁ確かに話してやってくれとは言ったけどもさすがにちょっと空気というかキャラ考えてやってほしい。お前あいつにいきなり大喜利振るとかコミュニケーションとして最悪だろ。いやなんとか会話はできているから完全に外れってわけでもないかもしれんが当たりではない。どうしてそう変な方向に思い切りがいいんだお前はもうちょっと憚り鑑みてくれ。




「サキュバス。お前、ちょっと顔近づけてみろ」


「え!? なに!? 唇!? 私の唇狙ってるのピカ次さん!? きゃぁ~~~~~~エッチ~~~~~~~~~~~~~!」


「いいから早く」


「え~~~~~~~~~~~~~? しょうがいないなぁ……はい、ちゅ~~~~~~~~~~~~~~うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」




 右手一閃! 鮮血噴射! ムー子の耳がつままれ着脱! 血飛沫にかかる虹の橋! 




「ちょ、ちょっと! 耳取れてる~! これ、洒落になんないって……救急車……警察……!」



 

 あ、そうだった。ラグは一般人だった。ムー子が悪魔だって事知らねぇんだ。しゃあない。誤魔化すか。




「まぁ待ってくれクリスタル。これは手品だ」


「手品~~~? 完全に生の耳だし本物の血なんだけど~~~」


「リアルさを出すため本物に近付けてるんだ。そうだろう? ムー子」


「いやマジで痛い……」


「手品だよな!」


「て、手品です……」


「ほら!」


「ほら! って言っても、現に取れてるし……」


「ムー子。見せてやれ。お前の耳を」


「はい……」


「え、あ、ホントだ~~~~~~~すご~~い! どうやったのそれ~~~~~!?」


「企業秘密だ。なぁ、ムー子」


「はい……企業秘密です……」


「ほぇ~~~~」




 ふぅ、なんとかなったが、まったくピカ次の奴。いきなり人体破壊する奴があるか。

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