サキュバス、メイドインヘブンのためにドロローサへの道を歩みました8

「まぁ立ち話もなんだ。どっか店に入るか。よし、あそこにしよう。ついてきてくれ」


「……」



 テクテク。



「……」



 テクテクテクテク。



「……」



 テクテクテクテクテクテクテクテク。




「さ。着いたぞ」




 ともかく座って落ち着こう。よく考えたら喉も渇いたし腹も空いてきた。少し優雅にカッフェでブランチと洒落こもうか。なぁ? 




「……おい」


「あ? なんだ?」


「なんだこの店は」


「なんだと言われても? ダークネスイリュージョンなんだが?」



 そう、目の前はメイド喫茶ダークネスイリュージョン。なんてったって徒歩二分。ちょっと進めばほら目の前という具合よ。



「あのサキュバスが入ってった店だろここ」


「あ? そうなの? よく見てるな“お前”。ま、どこでもいいじゃいか。はっはっは」


「話しがあるんじゃなかったのか?」


「そうとも。だから話そうじゃないか。この店で」


「……さては貴様、謀ったな?」


「どうだろうね。でもまぁ、結果的にそうなってしまったかもしれないね。申し訳ない」


「帰る」




 おっとそうはいかねぇ。




「ピチウがなぁ?」


「……」


「ピチウが最近、化粧とかし始めたんだよ」


「……年頃の女なんてみんなやってるだろ」


「そうだよなぁ。俺もそう思うんだ。田舎から都会に出てきて、一所懸命に垢抜けようと頑張ってるんだなぁって関心してるんだよぉ。いつの間にかデパコスだのなんだのを覚えてなぁ」


「……」


「化粧品って結構、張るみたいだぞ? 値が。どこから金が出ているかしらんが定期的に買ってらっしゃる。いったい誰に見せてるんだろうなぁ。高い化粧を施した顔をなぁ」


「……俺には関係のない事だ」


「そぉ? いやぁ、あいつが最近よく行ってる店とかさ、知らせておこうと思ったんだが、興味ない? ふぅん、そっかー」


「……」


「ま、ピチウももう大人だしな。男と一緒にいようがなにしてようが、俺達の知った事じゃないよな!」


「……いるのか? 一緒に?」


「え?」


「男と一緒にいるのかと聞いている」


「さぁ、どうだろうな。別に俺は誰とどこに行こうがどうでもいいし。下手なプロレスラーより強いから心配もいらんしな。ただ、あいつが男への苦手意識を克服したのであれば、清く正しい男女交際という可能性も無きにしもあらず。そういやぁ、先日はプラネタリウムに行ってきたと言っていたなぁ。無論、女同士連れだって訪れても不自然ではないが、男女であってもおかしくないスポットではある。俺が子孫を残せない以上、跡取りはピチウになるわけだが、そうなると必然その次はピチウの子供が継ぐ事になるわけだ。あいつもその辺りの事は結構シビアに考えているだろうから、今の内から男を選定しているかもしれんなぁ。知らんけど」


「……お前は本当に気に入らん。俺の一部だった人間とは思えん」


「相反する部分から生まれてきたのかもしれんな」


「……」


「で、どうするね。この店に入ってピチウの話をするかここで別れるか。二つに一つだ」


「……」





 カランコロン。





 ご入店。よし、俺も後に続こう。




 カランコロン。




「魔界へようこそお客様~ピカ太さん。遅かったですね!」


「おぉムー子。間に合ったのか?」


「ギリ! ギリでした! 始業三十秒前! セーフ!」


「セーフじゃないんですよムー子ちゃ~ん。準備全部私一人でやったんだよ~? おかげで開店までに間に合わなかったんだけど~? 人としてアウトだよ~?」




 お、ムー子以外にも店員いたのか、しかしこの間延びした喋り方はなんか聞いた事あるな。なんだっけ。えぇっと、確か……あぁ、そうだ。あいつだ。

 

 ……? なんであいつがこんなとこいつの?



「ん? あれ~? 輝さんじゃ~ん。久しぶり~?」


「……」


「ん~? 反応薄~い。もしかして忘れちゃった~?」


「あ、いえ、覚えてますよ。ラ……じゃなかった。九雲。九雲スイさんですよね。どうも、飲み会以来で」



 阿賀ヘル主催の酒の席で現れたメーガス三姉妹の三女ラグ! お前が何故ここにいるんだ!?



「あ、覚えててくれたんだ~嬉し~」


「バイトですか?」


「う~ん。ここのオーナー? の鳥栖さんとちょっと知り合って~。人手が足りないから手伝ってほしいって言われたんだ~。私、モデルっていってもフリーだから仕事ない時は暇だし~。可愛い服着て働けるならいいかな~って思って~」


「へぇ。そうなんですか」


「そうなの~? この服とかも~特注で作ってもらったんだ~? 可愛くな~い?」


「可愛いです」


「やっぱり~? 私もそう思うんだよね~やっぱ可愛い服着ると楽しいな~」


「そうっすか~」


「そうなの~。ところでこの小っちゃい子、弟さん?」


「……」


「まぁ、そんなようなものです。ピカ次。挨拶は?」


「殺すぞ」


「やだ~めっちゃ反抗期じゃ~ん。可愛い~」


「……」



 

 ピカ次の奴、めっちゃ睨んでくるやん。そんな睨まんでもええやろ。睨み過ぎやって。




「ちょっとちょっとスイちゃ~ん! いつまでもピカ太さんとピカ次さんを独り占めしなさんな~! ほら! 席に座ってもらいましょうよ!」


「そうだね~でもムー子ちゃんは間に合わなかった開店準備やってね~?」


「え!? なんで!?」


「遅れてきたから~」


「そ、そこはほら……お客さん連れてきたので大目に見ていただけると」


「そ、じゃ、責任もって接客するから~頑張ってね~」


「そんな~」





 ムー子が奥に引っ込んでいってしまった。どうしよう。もう一人の俺、ちゃんと知らない人と話せるのかな……心配だ……


 

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