サキュバス、寿司占いの結果がガリでした2

「はい、それじゃあ最初は、十五番の古里君。お願いしますね」


「はぁい!」


「元気があって大変よろしい。ちなみに十五番って番号、先生とっても好きなのよ。なんといってもマリー・ラフォレの誕生日と同じなのがいいわよねぇ。十月五日。太陽の日よ。アラン・ドロンと共演した太陽がいっぱい……よかったわぁ……はい、というわけで古里君。発表よろしくお願いいたします」


「はい。では、ただいまよりファイルをアップいたします。生徒の皆様は学校共有ドライブでご確認いただき、保護者の方々につきましては前方のプロジェクターをご覧ください」



 おぉ、まるで会社のミーティングのようだ。下手な中小零細よりも整ってるぞ。設備が凄い。これだけの環境、リテラシーもさぞかし高い事だろう。いったいどのような内容を発表していただけるのか、期待が高まる……





「どうも、ゆっくり霊夢です」


「ゆっくり魔理沙なんだぜ」




 ……


 ……は?




「霊夢」


「どうしたんだぜ? 魔理沙」


「私ったら最近、動物について調べてるんだけど、気になっている事があるの」


「へぇ。いいよな動物。私もウサギちゃんとかウォンバットちゃんとか好きなんだぜ」


「そうなのよ。可愛いわよね。モフモフしてて」


「そうそう。で、気になっている事ってなんなんだぜ?」


「えっとね、肉食獣っているじゃない? ライオンさんとか」


「おう。動物園の主役といっても過言ではないな」


「そのライオンさんなんだけど、獅子搏兎っていうじゃない」


「あぁ、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすっていうあれだな? 霊夢、物知りだな」


「えへへ」


「で、それがどうしたんだ?」


「えっとね、動物園のライオンさんの折にさ」


「うん」


「兎放り込んだら本当に全力で仕留めに行くのかなって」


「おい馬鹿やめろ」





 ……




「……課長」


「なんですかピカ太さん。発表中ですので、手短にお願いいたします」


「これ、作文の発表だよな?」


「はい」


「なんでゆっくり解説動画みたいなのが始まってんの?」


「これは枕みたいなものですね。本題に入る前に、こうした寸劇でジャブを入れておいて場を温めているんです」


「……寒くない?」


「それはピカ太さんがこの演出を何度も観ているからです。未だ悪いインターネッツを知らない子供達は素直に楽しみ喜んでいるでしょう。ほら、耳を澄ませてみてください。穢れを知らぬ純朴な少年少女のピュアなご意見ご感想が届きますから……」




 ……




「今日日饅頭はないよねぇ」


「そうだね。悪いけど、滑ってるよ。ずんだもんとかボイロ使えばいいのに」


「まぁ彼、なんだかアングラな界隈に憧れを持っているみたいだし、わざと外してるのかもしれないね。平成時代に書き込まれた大手掲示板の過去ログとか読み焦ってると言っていたし」


「ふぅん。つーちゃんねらーか。考古学者にでもなるつもりかね」


「どっちかというと錬金術師かな。ま、クソから黄金じゃなくて、クソからクソを錬成するようなもんだけどもね」


「君は酷い事を言うね」


「どうも」




「……」


「……」


「穢れを知らぬ純朴な少年少女のピュアなご意見ご感想か……」


「純粋故に忌憚がないのです」


「俺にはひねた大学生の会話みたいに聞こえたんだが」


「そんな事よりほら、本編が始まりますよピカ太さん。しっかり聞きましょう」


「……」




 ……



 五分後。




「最後に僕は、お父さんに向かって言いました。“今日は約肉がいいな”って。以上です。ありがとうございました」




 パチパチパチパチパチパチ




「はい、古里君、ありがとうございました。素敵なお話しでしたね。先生も昔ね、動物園に行って肉食動物が餌を食べるとこを見て同じ事を思った記憶があります。食と生物の共存について考えさせられる大変素晴らしい内容でした」




 ……ゆっくり解説みたいな動画から動物園の話に繋がり、結果として食物連鎖と食育の話になるとは思わなんだ。よく四百行でまとめたな。感心というか感嘆の至りだよ。本当、あの導入さえなければ凄くよかったのに……逆になんでわざわざ入れたんだ? 才覚があるのにセンスがねぇのか? いや、子供達の感想を鑑みるに、あえての事なのだろうか? 分かったうえでアレをやってるのか? そういう拘り? 制約? 三峯徹の絵柄みたいなもん? うぅん、深い……俺は何か、試練の場に立たされているような気がする。




「はい、じゃあ次、十一番。マリさんにお願いします。十一、十月一日はスタンリー・ホロウェイの誕生日ね。マイ・フェア・レディでドゥーリトル役を演じた役者なのだけれど、皆は多分、分からないわよねぇ……マイ・フェア・レディ、いい映画なんですけれど、今の子達にはウケが悪いみたいで、先生ちょっと悲しいわぁ……というわけで、マリさん、よろしくお願いしますね」


「はぁい」



……


「ピカ太さん。マリの発表が始まりますよ。ちゃんと観て聴いてくださいね」


「あぁ……ところで課長、マイ・フェア・レディってどんな映画か知ってる? 俺、観た事ないんだよね」


「谷崎潤一郎の痴人の愛みたいな話です」


「より分からん」


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