サキュバス、寿司占いの結果がガリでした3
「それでは皆様、ドライブ、並びにプロジェクターをご覧ください」
おっと、マイ・フェア・レディとか痴人の愛とかわけの分からん話をしている場合じゃない。マリだ、マリの発表が始まるのだ。しっかりと聞いておかねばまたゴス美にどやされる。ライバル会社のプレゼンと思って要点を逃さないようにしなければ。集中、集中……
「はい、準備ができました。それでは始めていきます。私は今回、水族館へ行った事を書きました」
……
「あれ? 導入は? 枕入れるのが流行ってんじゃないの?」
「必須ではないので。本文を長く書いた場合は、そちらを優先する生徒も少なくありません」
「ふぅん」
「ところでピカ太さん」
「あん?」
「覚えていますか? マリと水族館へ行った時の事」
「あぁ、そりゃあ、まぁ……」
「本当に?」
「な、なんだよ……覚えてるよ……」
「……」
「……すまん行ったという事実は記憶しているが、具体的にどうだったかという点は失念している」
「……」
はぁ……こんなところでマイナスポイント。つまらんと事で機嫌を損ねちまったな。今度菓子でも買ってこよう。ブンブンのどら焼きとかでいいかな?
「左様ですが。まぁ、今回のマリの発表でしっかりと思い出してくださいね?」
「……あれ?」
「? どうかなさいましたか?」
「え? あ、いや、なんでもない」
拍子抜けだな。小言か嫌味。あるいはその両方が飛んでくると思ったいたんだが……機嫌がいいのか? 今日。
「ピカ太さん。プロジェクターにマリの作文が映りましたよ。観ましょう」
「……あぁ」
まぁ、怒ってないならいっか。それよりも、マリの発表を見よう。
……
水族館の思い出。
三年 瑠璃 マリ
私は先日、二泊三日ホテルに泊まり、お兄ちゃんとプランちゃんの三人で水族館に行きました。笑われてしまうかもしれませんが、正規のルートで水族館に行くのは初めてで、とても楽しみにしていたのを覚えています。
ザワザワ……
「正規のルートってなんだ?」
「非合法的な入館方法があるのか?」
「偽造パスとか……」
「おいおいスパイか?」
……
前日は博物館に行って歩き詰めだったのですが、ちっとも疲れていませんでした。それどころ、海水魚、淡水魚、深海魚、回遊魚、肺魚、イルカ、シャチ、アシカ、アザラシ、オットセイ、両生類にペンギンさんなど、様々な生き物を間近で見られるチャンスであると胸躍り、むしろ、いつもよりも元気なくらいで、プランちゃんに「落ち着きになった方がよろしいですよ」と窘められたくらいです。文明の中で生きている私にとって、動物の営みの一端を垣間見れる事は大変貴重な経験であり、好奇心を駆り立てます。普段、お刺身やお寿司、焼き魚といった料理でしか知らない動物がどのように生きているのか。想像するだけで、私は楽しみで堪りませんでした。どれほど楽しみだったかというと、朝三時に起きてランニングをし、シャワーを浴びてご飯を食べて、それで時計を見たらまだ四時で、テレビをつけても全然頭に入ってこなくって、ともかく何もかも手に付かず、長い時間が一生進まないと錯覚するくらいに焦がれておりました。それで、ようやく約束の時間、朝の五時になると、飛び出るようにして部屋を駆け抜け、お兄ちゃんと待ち合わせをしたエントランスに向かったのです。
お兄ちゃん、もう来ているかなぁとキョロキョロしていると、外の方からフラフラとこちらに向かってくる人影がありました。誰かと思ったら、お兄ちゃんでした。お兄ちゃんはよれよれの服で、よろよろと歩きながら、「よぉ」と、気さくに声をかけてきました。
「え? どういう状況?」
「外から? 一緒に泊ったんじゃないの?」
「グレートの事だ。きっと裏の稼業をしていたに違いない」
「う、裏の稼業って……?」
「……テロリスト殲滅」
「……! さすがグレート! リコリコに負けてないぜ!」
……誰がそんなセガールみたいな真似するかぁ。普通に酔っぱらってホテルに帰ってきただけじゃボケェ。
……そう、酔っていたんだよ、俺はその時。
思い出した思いだした。マリから、「朝の五時集合ねー」なんて聞いて、いやいやまさか。さすがにまさかやろ~~子供ならではの勢い重視の嘘っこ約束やんこんなんなんて思ってたらガチな感じで話を進めてきやがったんだよ。え? 水族館はしご? ここからここまでいって、円を描くようにしてホテルに帰宅? 帰ってくるのは二十一時想定? 馬鹿? なんて感じでね。これは本気だと悟った俺は脱力したよ。なんたって明日にそなえようにももうスパークリングワイン(ルームサービスのシャンパンが高くて妥協した)片手にまったりモード。明日の朝なんて下手すりゃ十時まで寝てようかななんて思っていた矢先にガチの水族館巡りの予定到来。頭を抱えないわけがない。まぁでも約束だし守んなきゃなーとか、起きれっかなーとか色々悩んだ挙句辿り着いた答えが「朝まで飲んりゃ間に合うじゃん」だったんだよな。いやぁ、天才寄りの馬鹿だよな俺って。
で、結局近くの酒場制覇して朝。ホテルに着いたあたりの記憶はあるんだけど、そこから先が全然朧気なんだよな。なんたって、片手にターキー持ってリアルタイムに飲んでいたからさ、意識なんてあるわけねぇよ。花山薫は凄いね!
というわけでここから先は記憶にない俺の姿が語られるわけだ! うへぇ~~~助けてくれ~~~~~~~変な事しているなよ過去の俺~~~~~~~~~~~まじやめてくれよな~~~~~~~~~~~~!
「ピカ太さん。どうしてヨレヨレの服でヨロヨロと外からやって来たのですか?」
「あ、いや、それは……」
「飲んでましたね? お酒?」
「……」
「ましたね?」
「……」
「ね?」
「……はい」
……
……過去の俺よ。
くれぐれも、ゴス美を怒らすような真似はしてくれているなよ? 時すでに遅しではあるかもしれんが……
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