サキュバス、寿司占いの結果がガリでした1

 キンコンカンコン!

 カンコンキンコン!

 

 予鈴。

 最先端の小学校、生徒たちは机にノートPCを設置。黒板もプロジェクタービジョンに置き換わっており、この教室はまさしくテクノロジーの時代を感じさせる空間となっている。


にもかかわらずチャイムの音はキンコンカンコン。いつの時代もキンコンカンコン。僕も私もキンコンカンコン。老若男女がキンコンカンコン。そろそろ変えないこのメロディ? 山手線ばりにバリエーション増やしていこうよ。俺は五反田駅の発車メロディが好きだな。なんかこう、未来! 都会! オーライ! って感じしない? 




「ピカ太さん。背筋を伸ばしてください」


「あ、すまんすまん。考え事していた」


「気を抜かないでくださいね。みっともないと、マリにも影響が出ますので」


「分かっているさ。大船に乗った気でいてくれ」


「たった今注意したばかりの人からそう自信満々に言われると困惑してしまうのですが……」


「はっはっは」


「……何がおかしいんです?」


「すまん。返す言葉もないから笑って誤魔化した」


「……」


「……すみません」


「ともかく、ちゃんとしてくださいね?」


「はい」




 ふぅ、のっけから怒られてしまった。ゴス美の奴、マリ絡みだとうるさいんだよな。今日の授業参観だってそうだよ。「別に俺が行かなくてもいいんじゃね?」なんて言ったら人殺しのような目をして説教してくるし。子供からしてみればこんな時に両親が見に来て「がんばえー! ばんばえー!」なんて感じで後ろにいられるとか地獄だろ。俺だったら絶対に嫌だぞ。どっちかだけでいいよどっちかだけで。実際に七割くらいが一人だけだしさぁ……うっそだろお前三割は父母が雁首そろえてやってきてんの!? 子煩悩過ぎんだろ!? んな気合い入れられても子供困るって! ちょっとは考えてやれや! 




「ピカ太さん。背筋が」


「あ、すまん」


「考え事してる時に顎に手を置く癖、お治しになった方がよろしいかと、。首が下がって猫背になってしまうようです」


「あぁ、ちょっと探偵みたいでカッコいいなぁって思ってやってたら定着しちゃって、いつの間にか無意識で発動するようになっちゃったんだよ。でもなんかかっこよくない?」


「個人的な見解を述べるのであれば、否定せざるを得ません」


「そうですか……」




 キンコンカンコン!

 カンコンキンコン!



「ピカ太さん。本鈴がなりました。授業が始まりますので、くれぐれも粗相なきようにお願いします」


「分かった分かった。大船大船」


「……」



 そんな「信用できない」みたいな目で見るなゴス美よ。俺だってやる時はやるんだ。それよりも、今日はマリの授業をしっかりと観てやろうじゃないか。あ、マリの奴、今こっち振り返ったな? ふふ、ばっちり視線がかち合ったぞ。不本意ながらの参加だが、やって来たからにはお前の様子を終始監視してやるからな? はてさてどんな態度で挑むのか見もの見もの! お、先生がお見えになった。さ、授業が始まるぞ!?

  

 


 


「起立!」



 ガタガタガタガタ。



「礼!」


「お願いします!」


「着席!」



 ガタガタガタガタ!




「はい。お願いします。さて、本日は皆様が待ちに待った授業参観という事でね。普段以上にしっかりと臨んでいただきたいと思うのですけれど、とはいえ、いつもとは違う事をやってもしょうがないので、どうか平常心で挑んでいただければと思います。いいですか?」


「はぁい!」


「はい、元気なお返事ありがとう。ちなみに先生は今日のためにメイクをバッチリキメてきたんですけどね。そのせいで遅刻しちゃいそうになっちゃって、なんとか間に合ったんだけど、急いでしまったからせっかくのメイクが全部崩れちゃったの。あっちゃーやっちゃったなーなんて思っていたら他の先生に、“うわぁ! jokerかと思った!”なんて言われちゃって、“誰がジャック・ニコルソンじゃ”って返しましたらその先生、きょとんとしてまして、あぁ今はホアキン・フェニックスのイメージなんだぁと。ジェネレーションギャップをひしひしと感じてしまいました。なんだか腹が立ったので、その場でカッコーの巣の上でのジャック・ニコルソンがどれだけ素晴らしいか蘊蓄を垂れてやったらドン引きされまして、“そっすかー”なんて距離を置かれてしまいました。先生、これが時代かぁなんて悲しくなっちゃったね。しょぼくれて階段を降りたんです。そしたら時に滑りそうになってしまって、ワチャワチャとしながらなんとか降りられたのですが。それを見ていた別の先生から“あ、jokerの真似ですか!?”なんて言われまして、またニコルソンについて語るかぁ? なんて思いましたが、“辛い思いをするのはもうたくさんだ”と呟きこうして今に至るというわけです。さ、というわけで本日、皆さんには作文の朗読を行ってもらいます。この前提出してもらった、家族との思い出に関する作文です。どれも素晴らしい内容でした。今から返却しますので、名前を読んだら取りに来てくださいね。それじゃあ、安久くーん」


「はーい」





 めっちゃメイク崩れたまま普通に授業してるぞあの先生。いいのかこれ? 大丈夫なのか? というかjokerのくだりとかいる? 子供に話す内容じゃないというか、学校で保護者を前にしてよくあんなエピソードトークを披露できたな。剛の者過ぎるだろ。パワータイプの教師が優先して採用されるのかここは。



「あの先生、家庭訪問でマコレー・カルキンについて熱弁するだけして帰っていった事があるそうですよ」


「……」



 教員辞めちまえ!

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