サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした29
「実は先ほど、あのミイラの悪魔からテレパスをキャッチしたのです」
「テレパス?」
「はい。どうもピカ太様が両肩を引き裂いた際に意識を取り戻したとか。あの包帯には呪詛が込められておりまして、悪魔の魂を封じ込めて探知できなくするような効果があったようなのですが、ピカ太様の攻撃により解けて自我が戻ったのだそうです」
「ふぅん。じゃあ俺が恩人って事じゃん」
「そうでですね。ただ、愛した人間の身体を傷づけられた事と、危うく本当に滅しかけたので相殺と述べておりました」
「あ、そう」
恨まれるよりましとはいえ、不可抗力だからなあれ。避けられない事態に対して責任なんか取れんぞ。己の生まれの不幸を呪ってほしい。それに結果的に復活して逃げられたんだから特しかしてねぇじゃねぇか。むしろ感謝しろ感謝。
「それで、ピカ太様から受けた傷を回復するために、なんとかして協力してほしいと訴えてきたわけです」
「なるほど。それを叶えってやったわけか」
「左様です。貴族として、下々の者の懇願を無下にするわけにもいきませんでしたので」
なるほど、帝王学ってやつ? 結構な事だな。
「ですが、偉そうな事を言っても私だけでは達成できなかったでしょう。マリさん、改めて助けていただき、ありがとうございました」
「うぅん。本当に気にしないでよ。友達が困っていたら助けるのは当たり前だから」
「マリさん……はい! ありがとうございます」
美しい友情だな。俺にはこんな友達いなかったよ。というか友達の存在すら定かじゃねぇ。うーーーん、いたような気がするんだけどなぁ……一緒に連ジやった思い出があるんだが……
……おぼろげながら思い出した。
あの野郎。俺がガンダムハンマー持って接近しようとしてるのにゾックのメガ粒子砲で撃ち抜いてきやがるんだよ。こっちが背後から近づいてんのに完全に読んで背中の顔から攻撃してくんだよな。心を読んでいたのだろうか。はは、まさか。ニュータイプかって。
「ニュータイプといえばなんだけども、マリはなんでプランの考えが分かったんだ?」
「ニュータイプといえば。のくだりがよく分からないんだけど、それについてはプランちゃんからサインが送られてきてたの」
「サイン?」
「うん。丁度あの望って人と話し始めた頃、プランちゃん怖い目したでしょう? あれ、野球の時、私達のチームでで使ってるサインなんだ」
「へぇ。伝達内容は?」
「待て」
「……それでよく伝わったな」
「プランちゃんが意味のない事するわけないもん。で、考えたんだけど、あの状況の場合は多分時間が欲しいんじゃないかって思ったの。案の定、プランちゃんがらしくもなく挑発に乗って怒ったり話をし始めたりするし」
「え? あれ演技だったの?」
「半分は。ただ、あの望という方への嫌悪は本当です。」
「ふぅん……」
「? ピカ太様? どうかないさいましたか?」
「……いや?」
プランの問いに否定はしたが、どうかなされている。実際。何も知らずに内々で思考を巡らしていた事に対して。
ふふ……俺はすっかり騙されていたってわけかい。一人だけ蚊帳の外。疎外感。そして自己憐憫。二人の策略の中で俺はまんまと踊らされていたというわけだ。間抜けなピエロだ。いい歳して馬鹿みたいじゃねぇか畜生。あぁ、何が保護者だ。マリやプランの方が俺よりよほどしっかりしているし勉強もできるし社交性もある。それなのに、俺はいったいなにからこいつらを保護してやればいいってんだ。一人その気になって「保護者引率なんでもこーい」なんてはしゃいじまってさ。恥ずかしいったらありゃしない。駄目だ。てんで駄目。最悪。人として劣等。今夜は深夜ホテルを抜け出して赤ちょうちんで飲み明かそう。そうして朝、徹夜明けで風呂も入らずよれよれのまま二人の前に立って、そうしてまた軽蔑されて見向きもされなくなっていくんだ。ゴス美も怒るだろうなぁ……でもすまんな。俺はそんな人間、そんな人間なんだよ。ゴミはゴミらしくゴミのように生きていくべきさ。へへ……会社も辞めて引き籠ってガンプラ組んで、貯金が底を突いたら実家に帰ってお母さんに養ってもらお。めっちゃ怒るだろうけど子供を見捨てるような真似はすまいて。もう全部、全部捨て去って諦めて地に落ちて、最低最悪の俺を受け入れてプラモだけ作っていこう。それがお似合いだよ俺なんて。そうそう。そんなもんそんなもん。よし、今夜早速退職届書こ。
「ピカ太様」
「あ? なんでしょうプランさん。私、駄目人間の輝ピカ太です」
「え? いったい何があったんですか?」
「卑下」
「そ、そうですか……」
子供相手にこんな事言っちゃうんだぜ俺? もう笑ってくれよ。はっはっは。
「よく分かりませんが、本日はありがとうございました」
「……え?」
「博物館にも連れてきてもらいましたし、望氏との会話も引き延ばしていただけました。謹んでお礼を申し上げます」
……
「……ま、まぁそんな畏まらなくとも! 大人として……保護者として当たり前の事をしたなでだからね! いや、本当に!」
「左様でございますか。さすが、ピカ太様でございます」
「いや、なぁに、はははははははは……」
「この御恩は忘れません。もし、ピカ太様がお困りの際はこのプラン・ラ・トモシヒ。一族の誇りにかけてお助けいたしますので、どうぞ、よろしくお願いいたします」
「おう! その時は頼むで! ガハハハハハ! はぁ……」
……こいれでいいのだろうか。
いや、いいやもう、これで。
ともかくとして一段落ついた。少し……いや、大分疲れたが、今日明日はゆっくりとしよう……そうでなくちゃ俺、壊れちゃうよ……心も体も……
「そうそうお兄ちゃん! 明日はね! 五か所の水族館はしごしようね! 朝五時に起きて一番遠いところから攻めていくよ! 楽しみだね!」
「……」
心と体の大破が決定した。
し、しんどい……
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