サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした28

「人の気持ちとかも勿論大事だろ思うんだけどさ、まず自分がどうしたいか。何をしたいか。あらゆるしがらみを排斥して、自分の本当の気持ちはどうなのかって考えてみたら、おのずと考えは見えてくるんじゃないかな。だから、一旦一族? のためとかそういうの抜きにしてみようよ」


「マリさん……(チラ)」


「……(コクン)」



 

 ……急にそれっぽい事いいだしたな。昔話題になった「俺は馬鹿だから分かんねぇけどよぉ」みたいな導入から確信を突くテンプレート的な流れをかましてくるじゃん。でも俺思うんだけどさぁ。そういうのあるって分かってうえで皆悩んでんじゃん? 確信突いてくるってのは、逆にいえば前提であり論じるまでもない内容を今更蒸し返しているとっても過言でもないわけでぇ? 本当にお前馬鹿なの? って煽られてもおかしくないような頓珍漢な事をペラペラ喋っている場合もあるから迂闊に「俺頭悪いから分かんねぇけどよぉ」構文は使わない方がいいと思うんだよねぇ。

しっかしマリの奴、本当なんで急に知ったようなセリフを吐いたんだろうか。啓発本でも読んだか? いや、こいつさっきまでYouTube観てたんだったな。変な動画でもクリックして感化されたかぁ? ちょっと何を再生してたのか確認してみるか。え~~~~~~~~っと、ゴス美が設定していたファミリー用アイパスは~~~~~~~っと……あ、あったあった。コピーして、ペーストっと……はい、ログイン。履歴履歴……



 コムドット ヤマト 名言。

 ヒカル 切り抜き。

 はじめしゃちょー 凄い。

 




……ちょっと、いや大分趣味じゃない方々の動画だわ。いまひとつ何をしていらっしゃるか把握していない方々だわ。いや、職業YouTuberってのは理解しているんだけども、実体が分かんなくて敬遠しちゃう方々なんだわこの人達。ちょ、ちょっとこの手の動画ばかり観ていたら良くない気がする。ここは一言注意しておこ。


「マリお前……」


「なぁに? お兄ちゃん」




 ……いや、そうだな。




「……すまん。なんでもない」


「あ、そう?」


「うん。すまんな」



 これもいわゆる一つのジェネレーションギャップだし、若い頃はタレント性がある人間を観ていた方がいいような気がしなくもない。そうして社会に出て、その人達と自分。そして周りで働いている人間とのギャップを感じ取り色々な面での思考を巡らしてほしいものだ。別段さっきYouTuberを悪くいうつもりはないが、ちょっと極端というか、普通の人には真似できない行動をされていらっしゃるから、妄信的にならずに多様な価値観の基で判断していただきたいと思うんだわ。かくいう俺も昔はひろゆき信者だった……中学の頃に覗いたラウンジで……いや、何も言うまい。そんな事よりパピ男君だ。マリの話を聞いてどう思ったのか、君の心の内を知りたい。



「……それで言いますとやはり焼却処分が一番ですね。仇のセンチメンタルより一族のリアルです。こいつを何とかしない限りうちはずっと囚われ続けてしまう。こういう負の因果は絶やした方がいい。持ち帰って火をくべます。かまいませんね? 輝さん、プランさん」



 あ、やっぱそうなる? 

 まぁ、一族にクソ迷惑かけた人間とその駆け落ち相手の想いなんて知ったこっちゃねーよって話しだよな普通に考えて。そりゃ同情する余地もあるわけだが、だからといって被った被害が消えるわけでも補償されるわけでもないんだ。じゃあもうスッキリ清算して明日に向かっていく方がいいよね。



「俺はどの道無関係だと思っているから、わざわざ聞く必要もねぇよ。プラン、お前は?」


「私も、望さんがそれでいいのであればもはや語る事はございません」


「では、そろそろ本当に失礼したいので、輝さん。約束通り当主様にお電話していただいてもよろしいですか?」



 あぁ、そういやそんな約束してたな。



「了解了解。スマフォスマフォ……」




 グチチチチチチチチチチチチチ




「? なんだこの音? 着信音じゃないぞ?」


「……!? ミイラ! あの男のミイラが再生している!」



 な、なんだってー!?




「……回復するまでに時間がかかった。やはり、人間の身体は脆い。あぁ、アナタ……私の術で悪魔化してくれたらこんな風にはさせなかったのに……無念……無念……」



「チィ! 悪魔め! 生きていたか!」


「当然でしょう? 私はね、この人と生涯を添い遂げるって決めたの。だから死ぬわけにはいかないの。それにしても……あんたら一族が滅びるまで眠っているつもりだったのに、なぁにここ。博物館? やぁね。見物量取れるのかしらね」


「香典ならくれてやる。もっとも葬式など挙げはしないがな!」


「あらあらごめんなさい。さっきも言ったけど私、死ぬわけにはいかないの。じゃ、逃げさせてもらうから」


「させると思うか!?」


「お生憎様。逃げ足は鍛えられてるの。じゃあねぇ~~」



 ヒュン!



 え? 早。もういない。


「くそ! 輝さん! 当主様への電話はくれぐれもお忘れなきよう! 私は奴を追います! それでは!」



 ……行ってしまった。

 なんだこの怒涛の展開。ちょっと急に駆け足になってしまってついていけない。怖い。なにがあったんだよ本当に。





「……マリさん、ありがとうございます。時間稼ぎしていただいて」


「うぅん。プランちゃんが困ってるんだもん。当然だよ」





 ……? 時間稼ぎ? え? は? なに?




「そう言っていただけると……それにしても、よく咄嗟にあのような台詞がお出になりましたね」


「うん! YouTubeでそれっぽい事言ってる人の動画観てたの!」




 YouTuberで? 観てた? それっぽい事言ってる人の動画?




「ちょ、ちょっと待って!? 時間稼ぎってなに!? なんなの!?」




 混乱! もはやその二文字しかない! なにがったのここまでの中で!

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