サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした23

「それでもって追われる身となった二人なのですが。さすがは悪魔と悪魔祓い士。上手く虚を突き世を欺いて、長年に渡って逃げおおせたわけでございます。記録によると三十年、根無し草のまま渡世を彷徨い東奔西走。海千山千で人目を躱し、追手の世代も一つ代わり。男は歳を重ねて初老となったわけでございます」


「そんだけ時間が経てばもういいやってなるんじゃない?」


「ところがどっこいそうはなりませんでした。我が一族の執念とも呼べる追跡の手は緩まる事を知らず、子の時代、孫の時代にも獅子身中の虫がいたと語り継がれて討伐の任は続いていきます。男をその目で見た事がある者は時の当代を始め、全てが語り部として生まれてくる子供達へ子守唄代わりに男の恨み節を聞かせるのです。そして恨みは遺伝していき、未だ根深く私達の胸に刻まれ続け、裏切り者許すべからずという一念の基、強い絆で結ばれているのです」


「なんとも不健全な団結力だな」


「端から見ればそう思われるかもしれません。しかしこれは感情の問題。他人にどうこう言われたところで変わるものでもないですし、嘲笑されようが呆れられようが止める事もできません。あるのは男への憎しみのみ。その憎しみを断つ事によって、はじめて私の一族は呪縛から解放されるというわけです」


「なんだか不幸な話だなぁ。昔の奴の不祥事なんて忘れて自分の人生を歩めばいいのに」


「先ほども申し上げましたが、輝さんのお言葉は全て部外者の正論です。私達には届きません」



 聞く耳すら持たんとか振り切ってんな。こんだけ強固な洗脳されてんだったらもう好きにしてもらう他ない。そもそも他人の人生だし俺が口を挟む筋合いもないしな。



「まぁ分かった。お前の一族の事は俺のような人間がどうこう言う物じゃない。その点はいいだろう。だが、結局お前がここにいるのとその男の話がどう繋がってくるんだ? 全然分からないのだが」


「そこはこれからです。あ、お手洗いとか大丈夫ですか? 喉渇いてません? お茶ならありますよ?」


「いやいい。続けてくれ」


「分かりました。で。初老を迎えたその男なのですが。寄る年波には勝てず、力は落ち、身体の方も思い通りに動かせなくなってきたわけでございます。当時はまだ医療技術も未発達。迷信や俗説がまかり通り専ら家庭医療がメインの時代。男は見る見ると老いていきました。駆け落ちした悪魔においてもさすがに人間の寿命をどうこうする程の力はなく、日に日に弱っていく男の姿を見ては落涙を堪えきれなかったそうです。ざまぁないですね」


「アンチエイジングの呪文とかないの?」


「……ない事もないのですが、その悪魔は使えなかったかもしれません」


「ふぅん


「……」



「? どうしたんだプラン」


「……いえ、なんでもございません」


「……そうか」



 絶対なんかあるじゃん。こいつもろバレなんだよな。本当に悪魔やっていけるのか不安しかねぇ。別にいいんだけども




「それで、その男と悪魔はどうなったんだ?」


「はい。それまでなんとか逃げ続ける事ができた男と悪魔なのですが、ついに追い詰められました。そこはとある地下道で、なんとも凄惨な有様だったそうです。中では汗やら血やら糞尿やらと不敗臭。どうやら男は身動きもできず、身体も徐々に腐っていったようです。しかしまだ息がある。その男を看病していたのが悪魔でした。悪魔が追手を見るや否や、凄まじい形相で向かってきたそうです。力自体は大した事ありませんでしたが執着により魔の部分が活性化し、かなり手こずったそうで、討伐に向かった四名のうち一人が死亡。一人は右半身を失う重症。もう一人は術の行使ができなくなるといった散々な目に遭うもなんとか祓いには成功しました。が、ここからがこの話の肝心な部分となります」



 まだ肝心な部分じゃなかったのか。



「悪魔は最後の一念で男に取り憑きました。瞬間、発破音が鳴り響き周囲の崩れ落ちます。生き残った一族の者は咄嗟に逃げ出し難を逃れたのですが、その時彼は見たのです。ミイラのように包帯を巻いた男が立ち上がり、崩壊する地下室の奥へ消えていくのを……」




 ……




「……すると何か? 今モンゴリアンチョップならぬ飛翔白麗でぶっ倒したのが、その悪魔が憑りついた男のミイラだってのか?」


「ご明察です輝さん。いやぁ、呑み込みが早くて助かります」


「そこまで聞けば馬鹿でも分かるわ……で、どうすんだよそのミイラ」


「無論、焼きます。男の死体を回収して処分するのが私の役目ですからね。一族の恥さらしが、死んでなお地上にいるなんて事許せますか。炭火でじっくり焼いて炭化した身体を粉々に砕いてやりますよ。裏切り者にはおあつらえ向きの末路でしょう」


「なるほどねぇ……まぁ、さっき言った通り俺がとやかく言うような事でもないからあれなんだけども、そんな事したってなんにもならんだろう」


「いいえ? スカッとしますよ?」


「……」



 最近流行の復讐肯定系主人公ってやつ? 綺麗事並べるキャラクターもそんな好きじゃないけども、逆張りのように作られたのも苦手だな俺は。



「というわけで輝さん。そこに転がっている死体、持っていくのでよろしくお願いします」


「よろしくも何も、俺は何も……」


「ピカ太様」


「ん? どうしたプラン」


「その男にこの遺体を渡してはなりません」


「……」




 え~~~~~~~~? プランお前、どうした~~~~~~~~~~~~? 

 まさかの展開になにこれ状態。ほんともう、どうしたらいいんだ俺は。

 




 

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