サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした24
「おやおや……何を仰るかと思えば……どうも道理が理解できないようでございますね。このミイラ。憑依されて既に悪魔化してしまっていますが我が一族の男の成れ果てに過ぎない。文化財でもなんでもないのです。ただよく分からない人間のミイラが出土したからとりあえず管理補完してついでに博物館の展示物になっただけの事。身内である私が現れたからには、それを返却いただくのが筋という物でしょう」
これ文化財とかじゃないの? 説明文を読んでみよう。どれどれ……
“謎のミイラ。
当ミイラはチクセキ市から出土したもの。身元もミイラ化した経緯も処理した人物も不明であるが、高度な技術により完璧に保存されている。当時の国内の技術でここまで完璧なミイラを作成するのは難しく、誰がどのようにして、何の目的で行ったのかは現在でも分かっていない。”
「いや、結構貴重な資料として扱われるべきものなんじゃねぇのこれ? 端から見たらさ」
「そうですね。何も知らない人間からしたらオーパーツの類として認識せざるを得ないですね。しかし私達は悪魔の仕業だと知っている。となれば必然このミイラに一つの価値もない事はお分かりになるでしょう。そんなもの混乱の元。即刻処分してなかった事にするのが一番いいのです」
「言ってる事は分からんでもない(処理した後の混乱を考えるとそれはそれで事後処理が大変そうだが)。確かによく分からんものはない方がいいかもしれん(結局あれはなんだったのかと謎が解明されないままよく分からん事になるだろうが)。どうだプラン。今回は引き下がった方がいいんじゃないか(まだグダグダと話をしなきゃいけないのかと思うと超面倒臭いからそろそろ帰りたい)」
「いいえなりません」
そっかー。ならないかー。
めんどくせぇ。
「貴女が許そうか許すまいが私にとってはどうでもいい事。どうしても邪魔をするというのであれば、力づくで押し通るまで」
「……お待ちなさい。もはや貴方と争う気はありません。ただ、一つだけ確認したい事があるだけです。私の質問に答えてくだされば、どうぞ、このミイラは好きなようにしてください」
「質問ですか……先ほども言ったように、貴女の許可など必要ないのですが」
「すまんパピ男君。ここは一つ俺の顔を立ててプランの言う事に付き合ってやってはくれんか」
「……貸し一ですよ? 輝さん」
「はいはい。そりゃあもう。借りにさせていただきます」
「……いいでしょう。では、今回は輝さんに免じて貴方の理不尽な要望にお応えするといたしましょう。で、なんですか? 質問とは?」
「貴方、先程、悪魔が老化停止の術を使えなかったのではと仰っていましたが、どうして嘘を吐いたのです?」
「……」
「え? 嘘? 嘘なの? なんで分かるのそんな事」
「若返りたい。老いを止めたい。人間にとってそんな願望はありきたりでありふれたもの。人の欲望から生まれた悪魔がそれを知らぬはずなく、また、行使できない筈がありません。私達サキュバスですら簡易的な方法はいくらでも思いつきますし実行できます」
「……」
「ふぅん。でも、別にいいんじゃないか? 結果として使わなかった事に変わりはないんだから」
「ピカ太様は短絡的でございます。あえて隠したというのであれば、そこに意味や目的。秘密があるはずです」
「例えば?」
「例えば、このミイラは、この者の血族の者ではない。とか……」
「そんな馬鹿な」
「いいえ? あながちおかしな話でもないのです。ミイラは依然需要がある。それが悪魔のものであればなおの事。金銭を得るためだけの虚偽である可能性もございます」
「なるほど……しかし、仮にこの話が嘘ならあまりにでき過ぎてないか?」
「故にこうしてお伺いしているのですピカ太様……では、答えてください。どうして、貴方は嘘を吐いたんですか? 本当の事を聞かれると何か不都合でも? 」
「……別に、大した事じゃありませんよ。ただ、面倒だったのと、本当の事は口外無用の掟があるというだけです」
「口外無用?」
「そうです。はぁ……仕方がない。あまり言いたくはないといいますか、喋ったのが露見したらそれなりに怒られるのですが、輝さんならいいでしょう。言わないとスムーズに進まないみたいですし。それに、別に私もこんな事隠しておく必要もないとは考えていますのでね」
「怒られだけで済むんだな」
「まぁ、一族の中では私が稼ぎ頭ですからね。一度没落しかけただけあって金感情はしっかりしているんですよ家は。おかげで交通費も渋る始末です。私、ここまで来るのに新幹線を使ったんですけれども、自由席分の金額しか渡されなかったんですよ。仕方がないから自腹でグリーン車です。長老共がいつの間にやらスマフォなんてもの覚えてまして誤魔化しも効かず……忌々しい……おっと、こんな話をしたら余計に怪しまれてしまいますね。失敗失敗」
「会社立ち上げて経費で落としたら?」
「あ、その案いいですね。私知ってますよ? 今、人材派遣ってのが儲かるのでしょう? 霊能者集めて手こずっているお祓いや結界設置のサポートとして送り出せば儲けられるような気がします」
「お前それは闇に触れる事になるし労働者が地獄を見るから止めとけ」
「そうなんですか? いい案だと思ったのですが」
全国の食い扶持に困っている霊能者諸君。
君たちは俺に感謝してくれてもいいぞ? 消耗品化の危機から救ったんだからな。
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