サキュバス、家族旅行時の父親のテンションにマジついていけない感じでした22

「私、悪魔祓いを生業としている一族なんですけれども、先祖がやらかしましてね」


「やらかした?」


「はい。お恥ずかしい話、その、悪魔とそういう関係になりまして」


「一昔前に流行った漫画みたいだな」


「フィクションだったらどれほどよかった事か……自身にそんな悍ましく恥知らずな人間の血が流れていると思うと吐き気が止まりませんよ。実際今この場でもどしてしまいそうです。あ、もしもの際、エチケット袋などありましたら譲っていただけると」


「ない」


「左様で。仕方がないですね。床にぶちまけて清掃の方に迷惑をかけるわけにもいきませんので、羽織っているジャケットを広げて処理する事にしましょう。貸与物なんですけどね、これ」



 意外と茶目っ気のある奴だな。



「くだらないですね。まだ貴方のような差別主義者がいるとは。人類の意識レベルが停滞している理由が、そうした排他的思考によるものだとお気づきになりませんか」



 プランの怒りのボルテージが上がっているな。話の内容からして致し方ないか。



「私は人類の意識が高くなろうが低くなろうが知った事ではありません。むしろ、悪魔を非難、排除してレイシストといわれるのであればそれは名誉でさえある。私にとって悪魔は駆除の対象ですからね。だいたい人間に害をなす存在を許容しろという方がイカれてます」


「その害と呼ぶ悪魔自体が人間の欲望から生まれた事をご存じないのですか?」


「そんなもの知った事ではありませんね。依頼があれば悪魔を駆除する。それだけです。故に悪魔は虫と同じ。さしずめシロアリ駆除業者のようなものですかね。そして自身の一族にその駆除対象となる虫と通じ合った者がいると思うと、それはもう酷い気分ですよ」


「お話しになりませんね。貴方のような人間は嫌悪の対象です。まったく、ピカ太様のような方もいらっしゃればこうした痴れ者もいる。人間との付き合いは難しいですね」


「そう、輝さん。輝さんですよ。どうして悪魔なんかと? それも貴族悪魔ですよ? 当主様がお知りになったらお怒りになるでしょうに」


「色々理由があるが、長くて面倒だから説明は割愛する。あとお母さん公認だからその辺りは大丈夫だ」


「左様でございますか。それであれば私などが口を出す必要などございませんね。失礼いたしました」


「ちなみに、俺がこうしてお前のいう駆除対象と一緒にいるのはいいのか?」


「個人の事情や趣向にまでとやかく言うつもりはございません。あくまで身内にいたら嫌だなという感じなので。とはいえ、悍ましくは思いますけれど。私だったら絶対に耐えられませんね。多分死ぬます」


「ピカ太様。この者、一度叩きのめしてもよろしいでしょうか?」


「叩きのめす? 貴族悪魔といえどもまだまだ未熟な貴女が私を? 面白いですね。クラスとしては当代に一枚も二枚も劣る相手に負ける気はしませんが、いいでしょう。やれるものならやってごらんなさい」


「……今日、ここが貴方の墓場となります。ミイラと共に眠りなさい」



 プランのやつガチやんけ。アカン。



「やめろや。ここには人間の子供もいるんだ教育上芳しくない行為は慎んでくれ。なぁマリ」


「……」



 ……耳にBluetoothイヤホン付けて何やら動画視聴していらっしゃる。この状況で? お前が喧嘩止めろっていったんだよ? 普通見届けない?



「…… ん? なに? お兄ちゃん」


「いや、なに観てるのかなって」


「まいぜんシスターズ! ね、お兄ちゃん! 今度ス〇パラ行こ! コラボやるんだって!」


「うん。そうだね。行こうね」。


「本当!? やった! ありがとう! スケジュール決めておくね!」


「うん。あ、邪魔してごめんね。続き観ていいよ」


「そう? じゃ、終わったらまた教えて!」


「うん……」




 自分の世界を生きていらっしゃる。

 マイペースもここまでくるともう何も言えねぇ。それとも今の時代はこれが普通なんか? Z世代は分からんのぉ……Twitterで”#インターネット老人会”なんてハッシュタグ付けてキャッキャッしてる中年男女からしたらもはやカルチャーショックだよ。




「あの、話を続けてもよろしいですか?」


「あ、すまん。よろしく頼む」


「はい。で、そんな破廉恥な身内が今から百年くらい前かな……ともかく大分昔にいたんですけれども、愚かな事に、”悪魔との間に子供ができたので責任を取って一緒に暮らしていきます。家は出ていくので私の事は死んだと思ってください”なんて言い出したんですよ。当然のように大反対というか激詰めされまして、結果として抜け忍ならぬ抜け祓い士として追われる事になったんです」


「放っときゃいいのに」


「他人事だから言えるんですよ輝さん。悪魔を討伐している一族が悪魔と一緒になるなんて話が広まったらとんでもないう風評被害を被ってしまうじゃないですか。現にその男のせいで一族は一度傾きかてたんですよ。あぁ……あの時あんな事さえなければ、今頃は私の家も輝家と肩を並べる一大勢力になっていただろうに……ままならないものです」


「ははは」



 冗談なのか本気なのか判断できんから愛想笑いだけしとこ。仮に本気だったとしたらまったく同意できんけれども。権威主義ってやつ? どうも俺は嫌だね凝り固まってて。離れたとはいえ権威持ってる家柄の人間が言っても嫌味にしか聞こえないから黙っておくけど。



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