サキュバス、世界の中心でアイを叫んだけものでした4

「ピカ太さん、なんだかんだで私の事好きですよね」



 ほらな? こんな戯言を臆面もなく言っちゃうような奴だぜ? マジあり得ないよな。



「さっき林檎使って口内環境ズタズタにした奴に対して好意があると思うのかお前は」


「愛の形は人それぞれですし。ほら、好きな子に意地悪しちゃう男子みたいな? あ、なんかこんな話前にもしましたね。同じ事を何度も話せる間柄って、恋愛に発展しやすいらしいですよ?」


「一方的に喋ってんのは会話とは言わんだろうし、お前と話した事は記憶のゴミとしても残ってないから全部初めて聞くような感覚だし、単純にうざいし」


「ほらぁ~~~~~~~~~~~~~~~~それそれ~~~~~~~~~~~~~~! そういう憎まれ口を叩ける関係がいいですよね~~~~~~~~~~~~~~~って話ですよ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! 表層では本気で言ってるかもしれませんがピカ太さんは無意識の中で私を意識してしまっているんですよね~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! 知ってますよ私は~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


「無意識の中で意識してるってのがまず矛盾してるだろ」


「そこは言葉のあやというやつです。何を言いたいかといいますとつまり、ピカ太さんの深層の中には常に私が存在しているという事なんです!」


「なにを馬鹿な……」




 思い当たる節。

 そうだ、俺は暴力と愛について色々と葛藤していたんだった。こいつに対する殺意は愛に起因するんじゃないかと落ち込んでいたのだ。

 だが俺は本当にこいつを愛しているから殺したいのか? もう一人の俺がピチウを殺したくなるように、情の深さがSATUGAIに直結してんのだろうか? もしそうなら……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! やめてくれよ! 頭がどうにかなっちまう。そんなふざけ倒した設定絶対認められねぇ! あいつと奏でるアイラブユーなんてノーチャンだノーチャンだ! 看過できるものか! あ、あとそうだ! 殺意なら別にこいつ意外にも普通に抱くじゃん俺! スプラでハイドラ撒かれてる時とか! それと一緒よ一緒! だからこいつへ抱くぶち殺したい欲は健全な障壁除外思考だからセーフ! セーフです! 深層にあるのはきっと純粋なる敵愾心です!




「ピカ太さん、今、私に対する感情を必死に否定しようとしていますね?」



 畜生! なんで分かるんだよ! どいつもこいつも人の心の中を読みやがって! いい加減にしてよ! 僕にだってデモクラシーがあるんだ! 



「ほらほら~~~~~~~~~~~~~~~そんな無駄な抵抗をせず全てを受け入れましょうよ~~~~~~~~~~~~~~~! そうして素敵なワンナイトを過ごしましょ~~~~~~~~~~~~~~~まぁ今昼ですけども~~~~~~~~~~~~~~~~! ところで不倫ものって陽の高い内からおっ始める事多いですよね! なんなんですかねあれ!? 背徳心を高めてより扇情的な効果を出す演出なんですかね! なんか、”ゴミ捨て場で鉢合わせた隣の奥様がノーブラで明らかに誘ってる”みたいな展開多くないですか!?」


「知らんがな」


「知らないなら教えてあ上げますよ! 大人の恋愛ってやつヴぉヴぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


「怪我人相手に何をしているんですかムー子。控えなさい」


「おぉ課長、お帰り。どうだったピチウともう一人の俺は」


「そうですね。ちょっとぎくしゃくとしていましたが、そのうち慣れるでしょう。ピチウさんがなんだか少し大人になられたような気がしました」


「そうか……あいつももうすぐ成人するしな。いやぁ、なんだか感慨深いよ」


「そんな父親みたいな事言って……実際父親になったら子煩悩になりそうですねピカ太さんは」


「まぁ子供できないからそんな心配も必要ないんだが」


「いいえ残してもらいますよここで子種をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 私と馬鍬って人間とサキュバスのハーフをこさえるのですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! そして明るい家庭をつくりましょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 魔界は太陽ないんですけどねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


「だから! お前は! 怪我人相手に! なにを考えている!」


「痛いです痛いですゴス美課長! 抉るようなブローはやめてください死んでしまいます!」


「死ね! いっそ!」


「どうしてですか! 私は仕事をまっとうしようとしているだけですよ!? そもそも人間界に派遣された目的はピカ太さんの精を搾取するためじゃないですか! どうしてそれを妨げるんですかゴス美課長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


「……」


「痛い! 無言で! 無言で殴り続けるのやめてください!」




 うるさいなこいつら……本当にうるさい。うるささしかない。どうしてこんなにうるさいんだ? 度を越したうるささだ。うるさオブザキングだな。

 でもこの騒がしさも、平和な証なんだなぁ……なんか、実感できるなぁ……平穏ってやつを……



「あ、なんか我関せずな感じですけどピカ太さん。ピカ太さんが私を意識してるのは本当ですからね。その辺り、ちゃんと自覚もってくださいよ?」


「……何を言っているのか分からんな」


「じゃあ教えてあげますよ! 私はピカ太さんの精真に入って全てを感じてしまったんですよ! 私にどんな思いを抱いているか! 私をどんな風に見ているかをね!」


「……」


「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 水臭いですよねピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! あんなに激しく私の事を想っているのであれば素直に言ってくれればいいのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! まぁチェリーなんで仕方ないですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! やり方も誘い方も分からないですよねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! よろしおま! であればこのムー子ちゃんが一肌脱いだるさかいに! 最高の筆おろし体験させたるけぇ! 今日の事はよぉ覚えときなはれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



「……」


「痛い! だから無言で殴らないでくださいよゴス美課長! あ、でもピカ太さん。私も、ピカ太さんの事、少しだけ特別に思ってるんですよ」


「……」


「だから、もう少しだけ一緒にいてあげますね!」


「帰れよ」


「出ました~~~~~~~~~~~~~~~~~~ピカ太さんの天邪鬼~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! それは愛の裏返しって何度言えば……」


「……! ……! ……!」


「ゴ、がふっ! ゴス美か、げはぁっ! ゴス美課長、ヴぉえ! つ、強、げばぁ! 一撃が、ばがぁ! 一撃が強くなって、ぶべぇ! ばすぼぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「あの、課長、飛んでくる血がやばいんですけど……」


「すみません失礼しました。あと二回だけ殺すので、それまでお待ちください」


「げべ! ぼべ! ぶぐ!」



 ……




「ムー子。あんたこれから一週間の夕食、ブロッコリーとササミと卵の白身だから」


「なんで! なんでそんなボディビルダーみたいなメニューなんですか!?」


「皮下脂肪が笑えないレベルになってるからだよ! おらぁ!」


「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 物理的にお腹が凹んでいくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……これがゴス美ズブートキャンプ……」


「くだらない事言ってんじゃねぇぞゴラァ!」


「ぐわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」






 ……

 うるさいしウザいが、……もう少しだけ、こんな生活を続けるのも悪くないかもしれんな。




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