サキュバス、この戦争を終わらせに来ました5

「突然やってきて何を仰るかと思えば……どういう風の吹き回しですか?」


「言った通りだ。お前に協力してほしい」


「もう一人のピカ太さん。私は、ピカ太さんは信じておりますが、貴方についてはほぼ他人。そんな方に、急に協力してほしいと言われましても、正直困ってしまいますね」


「もう一人の俺とは既に話をした。今後は共生していく。だが、それも親父をなんとかしない事にははじまらん。そのためには、俺はお前を頼るしかないんだ」


「……証明できますか?」


「証明?」


「えぇ。貴方が信用に足る人物であるかという証明です。聞くところによると、貴方には殺人衝動があり、取り分けピチウさんに強い殺意を抱いているとか。そうした人間とピカ太さん……もう一人の貴方が手を取り合うというのは俄かに信じられません。信用できるという根拠か、担保となるものの提示をお願いいたします」


「確かにそうだ。だが、残念ながら俺はそういったものを持っていない。逆に聞くが、何をすれば信じる?」


「私はサキュバス。悪魔です。一番手っ取り早い方法を、貴方はご存じでしょう」


「契約か……」


「えぇ。今この場で、貴方が私の条件を無条件で呑んで契約すれば、私は貴方を信じましょう」


「……」


「え? え? え? あれ? なんか、 あれ? なんですかこのシリアスな空気? ちょ、重いんですけど。耐えられないんですけど。私こういう空気苦手です。もうちょっと軽い感覚でいきましょうよお二人とも。協力してくれるかなー!? いいともー!? くらいのノリでさぁ、ねぇ? だってこんなクソ真面目な展開息が詰まりますって。気楽にいきましょうよ気楽に」


「ムー子」


「あ、はい。なんでしょうかゴス美課長。歌でも歌いましょうか? 最近新曲取り下ろしたんですよ。レッドホット処女ペッパーっていうタイトルなんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんんんんんんんんんんんんんんぐべぇ……」


「ちょっと黙っていないさい」


「ばばびばびば……ばばびばびばべぼぼ、ぶびべべぼぼぶぶばばぶべぼぼばっばんばばびべぼぼば?(分かりました……わかりましたけど、貫手で喉潰す必要はなかったんじゃないですか?)」


「何を言いたいのか分からないけど、ひとまず黙れ」


「ばび……」


「で、どうですか、もう一人のピカ太さん。されますか? 契約」


「……いいだろう。なんでも言え。内容に関係なく、あらゆる条件を受けてやる」


「例え貴方の命を望んだとしても?」


「あぁ」


「……一つ、教えていただいてもよろしいでしょうか」


「なんだ」


「どうして私の所へ?」


「もう一人の俺が、一番信用していたからだ」


「……」


「あ、これは殺し文句だわ。ゴス美課長、完全に落ちますわこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」


「黙れムー子」


「ばび……」


「分かりました、もう一人のピカ太さん。では、貴方と契約を行います。よろしいですね」


「問題ない」


「契約内容は、ピカ太さんがピカ太さんのお父様と戦闘になった際。あるいは戦闘が避けられなくなった際、私が全知全能を持ってこれを助ける。ここまで問題ないですか?」


「あぁ」


「次、もう一人のピカ太さん。貴方は、私ともう一人のピカ太さん。そしてピチウさんを裏切らない事を誓う。具体的には、危害を加えない。利用しない。欺かないなど、対象者に対して害となるような行為をしてはならない。こちら、大丈夫ですか?」


「問題ない」


「結構。では、両名とも、約定を反故にした際は命を失うものとする。いいですね?」


「あぁ、構わん」


「え!? ゴス美課長、命賭けるんですか?」


「無論です。契約とは相手が差し出すものと同価値のものを天秤にのせて初めて成り立つもの。自分だけセーフティな条件で安納としているようでは、覚悟も矜持も足りません」


「私、今までずっと焼き鳥とか豚足にしてました……」


「……お前、これ終わったら教育コースな?」


「ひぃ!?」


「はい、もう一人のピカ太さん。これにて契約完了です。お互いいい仕事をしましょう」


「そうだな」


「……聞いてもいいですか?」


「なんだ」


「どうして急にピカ太さんと共生するなんていう考えに至ったんですか? 自分の中にあるもう一つの人格なんて、ノイズもいいところでしょう。しかも長年自分になり代わっていたし、意に反する思考まで持っている。どう考えても邪魔者でしかないじゃないですか。いきなり手を取り合うどころか、文字通り命懸けの契約まで交わして……この心境の変化に私は戸惑いを隠せないのですが、いったいなにがったのですか?」


「別になにもないさ。ただ、もう一人の俺と話しをしただけだ」


「何をお話しになったんです?」


「自分の事だよ。何を思っているのか、どうやって生きていくのか、そんな辺りの事だ」


「なるほど。その結果、二人で生きていく事にしたと」


「そうだ。それで今日親父と対面し、最悪拳を交える事になる。まぁ、別に俺は親父の事は嫌いじゃないんだがな。放っておけない事情もあるからな。避けられないようなら覚悟を決めて親子喧嘩をするつもりだ」


「勝てる見込みがないのに?」


「俺はな。だが、もう一人の俺がいる。どこまでできるか正直不安なところではあるが、どの道避けられないんだ。頑張ってもらうさ」


「分かりました。では。私も契約通り最善を尽くしましょう」


「あぁ。頼む……」

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