サキュバス、この戦争を終わらせに来ました4

「では追加の要件を説明する」


「はい」


「お前が契約のバフをかける際、ピカ太さんに憑依して直接受信するようする。これによって処理装置のデータが直にピカ太さんに伝わり、無駄なくパワーアップができるという算段だ」


「大丈夫ですかね。言い出しっぺは私なんですが、机上の空論のような気が」


「理論的には問題がないはず。実例がない以上なんともいえないけれど、まぁ恐らく上手くいくでしょう」


「そんな賭けに乗って大丈夫ですかぁ? 絶望的な状況で冒険すべきではないんじゃないでしょうかぁ? ここは通常通りの対応を取って、マジでどうにもならなくなったら最後の手段として実行するというのはどうでしょうかぁ? 展開的にも漫画みたいでかっこいいですよ。最終手段! ってな感じで」


「馬鹿。マジでヤバイ時に試しても結局ダメージ蓄積してるから余命が伸びるだけになるでしょう。万全じゃないから失敗する可能性も高くなるし。こういうのは出し惜しみするとその分だけ不利になるの」


「うぅん。さすが修羅場を潜ってきた方は違う。でも私、憑依上手くできないかもしれませんよ? 研修でいつも成績最下位だったし」


「そうだった……お前、本当そういうとこ駄目だね。肝心なところで使えない。何考えて生きてきたの? そんなんでどうして息を吸っていられるの? 甲斐甲斐しく光合成している植物に申し訳ないと思わないの?」


「きゅ、急に詰めるのやめてください……こう、心臓がキュッ! っとなります……」


「もっと早い段階でキュッとなって死んでくれればよかったのに。こんなに長生きするから辛い思いするんじゃないの? 私にもストレスかけて。ねぇ、なんでもっと早く消えなかったの?」


「す、すみません……今回は死ぬ気で頑張ります」


「そんなの当たり前でしょう。逆にできなかったら殺すから。マジで再生できないレベルで潰すから。遺書の用意をしておくように」


「ちょっと罰が重くないですかね……」


「お前が受け取った九百万分の責任は取る。当然の事でしょう。損失の補填は身を切って当然。それがビジネスのルール」


「支払額を戻すとかじゃ駄目でしょうか」


「請け負った仕事を全うできなかった分は別額。誇りをかけて、命をもって償うしかない」


「別に私はこの仕事に誇りもなにもないんですけれども」


「あぁ? お前今なんつったぁ?」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃすみませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん自分の成長に繋がるこの仕事こそが転職であり心の故郷ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! ウサギが美味しいかの山ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


「うるさい」


「すみません……でも、現実問題どうするんですか? 今から練習したって気休め程度しか向上しませんよ? 精神論でなんとかなるならいくらでも頑張りますけど(死にたくないし)、何とかしないといけないんですよね? 対策は考えた方がいいのではないでしょうか」


「……お前、他人事のように言うけど自分が原因で発生している問題っていう自覚はある?」


「それは勿論です! でもどうしようもないのでここはもう割り切るしかないかなって! 私も頑張りますから! 駄目な私を生かすために最高の案を考えましょう!」


「……」



 ヒュッ!



「痛い! 突然左ジャブが飛んできた! これは何故~~~~~~~~~~何故当然に左ジャブ~~~~~~~~~~~~~~~? 世界を制する黄金の左~~~~~~~~~~~~~~~~?」

 

「おい」


「はい……」


「あんま調子乗ってんじゃねぇぞ?」


「すみません……ですが、やはり得手不得手がございまして……憑依はどうも苦手なんです……なにか、成功率を上げる方法などがございましたらご教授いただけますと……」


「ない事もないんだけど、これもセンスだし、薬を使って感応高めるにしても今から調達して調合する時間も……どうしよう……やはり、駄目元で今から指導するしか……あぁでもこの馬鹿本当に使えないから……最悪マジで運を天に任せるしか……」


「その心配はない」


「誰……!?」


「あ、ピカ太さんじゃないですか。なんですかこんなところに来て……ってあれ? なんか雰囲気変わりました? しかも分体だし」


「馬鹿。こっちはもう一人の方のピカ太さん」


「え? あぁ。貴方が噂の。どうもお初にお目にかかりまして。私、世界で一番の美少女をやらせてもらっています、島ムー子と申します。今後ともご贔屓にどうぞ」


「憑依についてはこちらで霊体の干渉を受けられるようにしておく。どんな馬鹿でも基礎さえできれば問題ないはずだ」


「おっといきなり無視ですか。握手をするため差し出した右手がただただ虚しい。ファーストインプレッション最悪ですよアナザーピカ太さん。ま、ギャルゲーだったらありがちな展開ですけどもね。最悪な出会いをした二人が結局くっつくんかーいみたいな!」


「恐らく俺では親父に勝てん。一応、奥の手も用意しているが、破られる可能性は十分にある。その際は、お前の力を借りたい。ゴス美」


「……」


「あれ? 蚊帳の外? 私蚊帳の外ですか? ねぇちょっと、やめくださいよ本当そういうの。私寂しいの駄目なんですよ? ねぇ? 聞いてますか? もしもーし!」

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