サキュバス、親父にもぶたれた事ありませんでした18

「あらあら男の子って素直じゃないものね。そういえば弟もよく私に向かって悪口を言ってきたの。どうしてそんな事言うのって聞いても全然理由を教えてくれなくって、だからお父さんやお母さんにもね? 聞いてみたの。どうしてだろうって。でもねでもね? やっぱり答えてくれなくって、どうしてだろうって、どうしてだろうってずっと思っていてね? ピカちゃんはどうかな? 教えてくれるよね? だって私の子供なんだもん。ねぇどうして嫌な事を言うの? ねぇ? どうして? どうして? 私は貴方の事を思って言っているの、分かるでしょう? なのにどうして? 正直に話してちょうだいね? そうしたら許してあげるから、ね?」


「話がまとまってんのか散らかってんのか分かんねぇな。ともかく、邪魔するならただじゃおかねぇ」


「あ、やっぱり男の子なんだ。素直には謝れないんだ。じゃ、しょうがい。うんうん。しょうがないねピカちゃん。お仕置きはね? 必要なの。だからね? 少しだけね? ごめんね? ごめんね?」


「……!?」


「避けちゃ、だめじゃない。お仕置きにならないんだから。ほら、当たって、当たって、ね? 一回。一回だけだから。ほら、ね?」















「阿賀ヘルって術使う家の当代なんだろ? なんでナイフ投げてんの?」


「これだけ遮蔽物のない部屋なら物理攻撃の方が早いですからね。それに、阿賀家は古来より神経系の薬毒の秘術を相伝しています。あのナイフには何かしらの成分が仕込まれているのでしょう。恐らく、下手な術より有効なものが」


「大丈夫それ? エアロゾル状で散布とかされない?」


「そんな事したらピチウさんにまで被害が出てしまうでしょう。あの男と女がピチウさんんをどう扱うつもりかは知りませんが現状人質の意味もあるのですから、下手に巻き込むような真似はしないはずです」


「なるほど。それにしても……阿賀ヘル、なんかめっちゃ足早くない? さっきから飛んだり跳ねたりしてるし、人間かあれ?」


「術の使い手は術が使えない状況下も想定しなければなりません、まぁあのくらいの動きはできて当然でしょう」


「ハードは世界だな……」









「あぁ、駄目。駄目駄目駄目ですよピカちゃん。さっきから何回も何回も避けちゃって、ちっとも罰にならないじゃないですか。どうして私の気持ちを分かってくれないんですか? 家族じゃないですか。一緒にお話ししましょう? お父様もじき帰ってきますから、それまで、ね? 親子水入らずでお話ししましょうよ。何のお話がいいですか? そうだ、私の得意料理のお話しをしましょう」


「どうでもいいんだよお前の話なんかは……っと!」


「……!」


「ピチウ!」












「おぉ、隙をついてピチウのところまで一挙に飛んだぞ。阿賀ヘルの距離はかなり遠い。これはもう連れ出して逃げ出すだけでよくない?」


「……いえ、なにか、様子が変ですよ?」














「おい、逃げるぞ」


「……」


「おい! なにをしている! 早く来い!」


「! いや! いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや! 離して! 離して! 離して!」



「ピチウ……」


「……」


「あら駄目じゃないピカちゃん。妹を泣かしちゃ。まだ、あの時の事覚えてるんだから」


「あの時……」


「ほら、ピカちゃんがピチウちゃんを殺そうとした時の事」


「……」


「あれからね? 可愛そうにピチウちゃん。心に傷を負っちゃったの。男の凄まれたり、掴まれたりすると、怖くてどうしようもなくなっちゃうんだって」


「……ピチウ」


「でも、ね? 一緒に治していきましょう? 私もできる限りの事はするから、ね? ね? あ、でも今はその前に、お仕置きしなきゃ、ね? ね? ね? そうですものね? ピカちゃん。ピカちゃんは悪い子ですもんねぇ? ねッ!」


「ッ!」


「ピカちゃん凄い! いつの間にそんなに動けるようになったのかしら! いままでずっと引き籠っていたのに! 私感動しちゃった! あぁ、叱らなきゃいけないのに、褒めちゃったら駄目じゃない。私って駄目ね。うん。だから、やっぱりお仕置きしないと。だってそれが母親なんだもん。ね? 分かるよねピカちゃん」


「阿賀さん……もう止めましょうよ……お父さんもどこか行っちゃったしもういいじゃないですか……どうしてこんな事続けるんですか……」


「どうして? だってこれは、皆が望んでいることなんですもの。貴女もそうじゃない。ピチウちゃん」


「違う! 私はこんな事望んでない!」


「違わないよぉ? ピチウちゃぁん。何も違わないの。だって、貴女だって望んだじゃなぁい。みんなで仲良く暮らしたいってぇ!?」


「私は……ただ……お母さんとお父さんとお兄ちゃんと一緒にいたいって……そしたら、お父さんが、分かったって……」


「そのために今こうしてみんなで集まっているんじゃなぁい! ねぇ? ピチウちゃぁんお母さんの言ってる事分かるぅ?」


「貴女は……貴女はお母さんじゃない!」

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