サキュバス、親父にもぶたれた事ありませんでした17

「いったい何を使う気なんだろうか。そもそも術とか効かないよね? 親父」


「力量にもよりますが、私以外であの男に有効打を当てられる存在は一人か二人くらいなものでしょう。とてもそのレベルに達しているとは思えません」


「しかし、なにかしら勝算がなければあんな言動には移さないかと。もう一人のピカ太さんについて私はあまりご存じないのですが、少なくともどうにかできる揺るぎない自信はあるように感じられました」


「自信があるのは大いに結構ですが、井の中の蛙でないといいですね」


「一応お話は伺っているのですが、ピカ太さんのお父様ってそこまで強力な術耐性をお持ちなんですか?」


「貴族悪魔の最大出力でようやくダメージが通るかなというレベルです。直接攻撃はまず無意味ですので、正攻法で当たるのは愚策というか無策というか、自殺しにいくようなものですね」


「……なんでそんな人間が存在しているんですか?」


「さぁ? 神の戯れじゃありませんか?」


「……ははは」


「……」




 ゴス美の奴、愛想笑い下手だな。どうでもいいけど。

 デ・シャンのいう通り親父に術は効果がない。なので、もう一人の俺が使おうとしているのは多分攻撃系のものではないだろが、いったい何をするつもりなのか全然想像できん。本当に大丈夫なのか? まぁ、今はみている他にないのだが……














「準備ができた。逃げるなよ?」


「俺が逃げる? くだらん冗談だ! さぁこい! お前の力を見せてみろ!」


「……いくぞ! くらえ!」


「……な!? これは……この術は……!」


「今更気が付いたか!? だがもう遅い! 吹っ飛べ! 時空の彼方までなぁ!」
















「なんだ!? 親父の辺り一面に妙な空間が現れて引きずり込まれていったぞ? というか、あの景色……」


「異空間接続。私が屋敷で見せた空間干渉系の術ですね。それなりに力と技術が必要なのですが、ダスピルクエット。貴女、この手の術を輝さんの前で使った事ありますか?」


「ありませんよあんな邪法。魔族御用達の外道な術です」


「という事は、どうやらあの時に私の術の痕跡を解析して再現したという事ですか。この短期間で」


「凄いですね。初めて使ってほぼ完璧でしたよ。さすがに範囲はかなり限定的でしたが」


「力の総量が違いますからね。ただ、やはりダスピルクエットの血を引いているというわけですか。センスも才覚も人間離れしている」


「あんな術を使用した点は我慢なりませんが、確かに、実践もせず理論だけで再現してしまうあたりは宙家の力を引き継いでいるといってもいいでしょうね」


「まぁなんにしても、これで親父を異空間に隔離できたわけだろ? なんだよ全部問題解決じゃん。ただデ・シャン。聖書に関してはまぁ諦めてくれ」


「輝さん」


「なんだよ?」


「……いえ、まぁいいです。じきに分かるでしょうから」


「?」













「……さて。一番厄介な奴が片付いたところで……ピチウ」


「……」


「帰るぞ。お前の家に」


「……」


「そう怖がるな。確かに俺はお前を殺そうとしたが、今、そんな気はない。とりあえず安全な場所へ……!?」


「ピカお兄ちゃん!」


「!?」


「ごめんなさいピカちゃん。仕方ないの。だって、夫が不在の間は妻が家庭を守らなくっちゃあならないんだもの。ね? 分かってくれるよね? ピカちゃん?」


「いきなりナイフ投げてきた事も言ってる事も何一つ分からねぇ。夫? 妻? 家庭?  全てが迷走している。妄想も大概にしておけ」


「妄想? 違う。違うのピカちゃん。私はあの人とね、結婚したのよ。それでねそれでね? 二人で色々なところにいって、お話しをして、愛し合って、そうやって絆を育んできたの。勿論貴方の事も聞いていてね? ”俺の子供も愛せるか?” なんて、そんな水臭い事を言うのよ。そんなの当たり前じゃない。だって、あの人の血を引いてるわけでしょ? どうしてそれが愛せないの? 愛する事ができないの? 私はこれまでずっと家族のために生きるって誓っていたの。お家を立て、みんなでご飯を囲んで、遊んで、寝て、それでまた、平和な、同じような一日が始まる。それを何日も何日も繰り返していくような家庭を作るの。ね? 素敵でしょ? ピカちゃん? 貴方は私の子供になるのよ? どうかしら? 想像してみて? 私をお母さんって呼んでいるところ、あの人と一緒に生活している姿を。ほら? 幸せでしょう? とってもとっても嬉しいでしょう? だからね? そのために、今貴方をここに留めておくのは必要な事なの? ごめんね? でも仕方ないの。分かってくれるよねピカちゃん。だって、貴方は私の子供なんだから」


「……何があったか知らんがあんた、親父に利用されているぞ」


「利用? なにを言っているの? あの人は私を救ってくれて、ずっと一緒にいてくれるって言ったのよ? そんなわけないじゃない。いえ、仮に利用されているとしても、私は構わない。だってそれって、あの人が私を必要としてくれるって事でしょう? あぁ、素敵……そうね。そうなの。私は、あの人に求められて、利用されているの……あぁ好き。好きだわぁ……私、あの人のためだったらなんでもする……そう、だから、だからね? ごめんねピカちゃん。一段落ついたら私には何してもいいから、ね? だってそれが母親でしょう? 子供のためになんでもやるのが仕事でしょう? ふふ。そうよ。そうなのピカちゃん。私、あの人の妻で、貴方のお母さんなの? あれ? なんのお話をしていましたっけ? あぁ、家庭の事でしたね? ふふふ。ピカちゃんは、朝ご飯。何がいい? 毎日毎日、なんでも作ってあげるから、ね?」


「……反吐が出る」

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