サキュバス、アルパチーノとロバートデニーロの不仲説を聞いて思わずオレンジを口に含みました48

 サー……

 ゴクリ。



 あいつ酒で薬キメやがった。大丈夫か? いっか別に大丈夫じゃなくても。ムー子だし。



「はい! 飲みました! じゃあ早速私に向かって愛の言葉をぶつけてきてください!」


「そんな即効性ないだろ。しばらく待ってろよ」


「ゴス美課長曰く、十秒チャージ二時間キープらしいです」



 エネルギー飲料かぁ? まぁ粉末だから吸収率が高いという風に思っておこう。ともかくこれで俺のバフ効果が発揮できる可能性が高まったわけだが、うぅむ……



「……」


「ピカ太さん! まだですか!? ピカ太さん!」


「……」




 考えてみたらこいつに好きっていうのはなんかなぁ……照れとかじゃなくて魂が拒絶反応を示していて言葉が出ないんだよなぁ……どうしよ、でも言わないとここから脱出できず、ピチウ救出のための準備に支障が出るかもしれん。というか、今考えるといつまで軟禁されるのか分かったもんじゃないんだから、さっさと出るのが賢明。言うだけだし速攻で処理するのが正解なんだけども……



「……」


「ぴーかー太ーさーん! まだーーーーーーーーーーー? ちょっと”好き”って口に出すだけですぐ済むんですよーーーーーーーーーーーーーー? それだけで”力”を手に入れられるんですよーーーーーーーーーーーーーーーー!? なぜーーーーーーーーーーーーーー!? なぜそれができないーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!? 奥手かーーーーーーーーーーーーーー!? こういうのは勢いが大事ですよーーーーーーーーーーーーーーーー!? あれこれ考えると結局なにもできなくなっちゃうんですからねーーーーーーーーーーーーーーー!?」



 それはその通りなんだが俺にだってできる事とできない事くらいある。だいたい殺したい相手に対して表面上とはいえ好意を伝えるとかどんな拷問だ。いや普段会社でやっている事ではあるんだけどそれをプライベートに持ち込むというのはちょっと違うんだよなぁ……でもこのままだとピチウが……うーん、例えるならばゴキブリに接吻するようなものなのだが、やらねばならぬのであればやむを得まい。断腸の思いで、ここは対応しよう。いくぞ! やるぞ! がんばるぞー! おー!



「す……」


「すーーーーーーーーーー!? ピカ太さんすーーーーーーーーーーーーーー!? なにーーーーーーーーーーーーーー!? すーーーーーーーーーーーーーの次はなにーーーーーーーーーーーーーーーー!? 早くーーーーーーーーーーーーーー! はっきりとその続きを聞かせてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


「す……」


「すーーーーーーーーーーーーーーーーじゃないんですよピカ太さーーーーーーーーーーーーーーーーん! 早くしないとーーーーーーーーーーーーーーー! 時間がないんでしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! ほらぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーこの合間にも既に五分経過しているーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! タイムイズマネーですよピカたさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん! 時間がもったいないですよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


「……き」


「なんてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー? ちゃんと連続で言ってくれないと私分かんなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい! ちゃんとはっきり明瞭に言葉に出していただかないとなにもーーーーーーーーーーーーーーーなにも理解できないーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! ごめんねこんな不器用な女の子でーーーーーーーーーーーーーーーーーー! 心の奥を汲み取ってあげられなくってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! でもちゃんと聞きたいのピカ太さんの言葉をーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! だから早くーーーーーーーーーーーーーー! 」早く聞かせてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!? ピカ太さんの口から私へのアイラブユーをーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


「……」



 ……



 ……OK。

 腹は括った。俺は言うぞ言うぞ言うぞ! ムー子に向かってちゃんと言うぞ! 





「はぁピカ太さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん! 私はいつだって準備できているんですからねーーーーーーーーーーーーーーーーー!? はやくそのお口で伝えるべき気持ちをお伝えしていただきたくーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! さぁさぁさぁさぁさぁさぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」



「……ムー子」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいなんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁピカ太さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」


「隙だらけだ」


「え? 」


 疾走! そしてタックルの要領で脇に入りそのまま……



「これが俺の気持ちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 受け取れムー子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなにこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「お前の事は正直大嫌いだし心の底から死んでほしいがこうして気軽に危険な技をかけられるからその点においては大好きだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! だから喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 全身全霊ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 気合い必中魂のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「リバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァス! アトミィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック! ドロォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」


「ぴぎいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 

 ムー子の臀部を粉砕! そして床を踏み抜きそのまま……



「おわぁ!」



 フリーフォール! 勢い余って一階へ! 

 うぅむ、ドロップを極める瞬間、急に力が湧いてきたか感覚があったが、どうやら無事薬の効果でバフ効果を得られたらしい。よかったよかった。生ハムの原木を使うまでもなかったな。禁暴力を破ってしまったが事情が事情。こうしなければ気持ちを伝えられなかったんだ。しゃあない。



「輝さん……」



 お、丁度デ・シャンがいるな。見たところここは客室か? まぁどこでもいいか。よし、この場で聞いてやる。何故俺を閉じ込めたのかを……うん? なんだもう一人いるが、誰だ…… 



 ……





 ……嘘だろう?


 なんで? なんで? 

 どうして? どうして?



 なんで? どうして?




「よぉ、久しぶりじゃないか」

 




 どうして、なんで?





「元気だったかぁ? ピカ太よお?」


  



 お前が……

 親父がここに、いるんだ!?


 

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